◇ “結婚しようよ”で始まる万葉の世界
籠(こ)もよ み籠持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串(ぶくし)持ち この岡に 菜摘(つ)ます児(こ) 家告(の)らせ 名告らさね そらみつ 大和(やまと)の国は おしなべて 吾こそ居(を)れ しきなべて 吾こそ座(ま)せ 我にこそは告らめ 家をも名をも
籠(かご)はね、立派な籠を持ち、へらはね、すてきなへらを持ち、この岡で若菜を摘んでいらっしゃる娘さん、家がどこだかおっしゃいな。名前をおっしゃいな。この大和の国はすべて、この私が治めているのです。(この国を)統治している、私こそが国王でいらっしゃる。私には言ってくれるだろうね、あなたの家も名前も。
『万葉集』巻一の巻頭を飾るこの一首は、『求婚歌』として知られています。
古代においては、相手の名前を尋ねることはプロポーズを意味したのです。問われた側(この歌では若菜摘みの娘)はYESなら自分の名を答えます。相手が声を出して名告(乗)ってくれたら、結婚の承諾が得られたことになるのです。
――私はこの国を治める者だが、と名告(乗)り、相手の名を問う大和の国王。新春の明るい日を浴びる緑の若菜。その生命力溢れる野に出て、新年の若菜を摘む乙女――。
大らかでほほえましい晴れやかな一首です。おそらく、その求婚歌は民謡的に語り継がれ、歌い継がれてきたものでしょう。結婚の儀式などでドラマッティックに披露されたかもしれません。屈託のないまっすぐな思いが、シンプルな言葉の繰り返しの中で「生の喜び」へと高められていくようです。
|