科学の進歩で、めざましく身の周りの生活が変化してきた21世紀である。また、科学の扉が開けば開くほど、私たち人間の追究すべき課題がどんどん増えてきていることを実感させられる時代であるとも言えるだろう。
中学受験をスタートしたけれど「理科は点が取りにくい。」という声をよく耳にする。反対に「他の科目は得点できないのに、理科なら点がとれる。」と言う人も見かける。この違いは何の差から来るのだろうか。理科嫌いや、理科が勉強しても得点しにくい科目になっていることの解決法について考えてみた。
(1)読み取り力の差と言えるのではないか、と言う考え方がある。特に中学受験においては、いずれ分かれる生物、地学、化学、物理の四分野が扱う範囲が多いとは言えない。科学のスタート地点の学習だと言える。そのため、少ない内容の中から出題するので、読解力の差で問題を作ることを考えざるを得ない、という考え方である。実際に理科の問題を解くとき、「これは何のことをたずねているのか?」と自分で問い直す力が必要であることは多い。しかし、国語や社会の読解力に自信がある人なのに、理科は得点できない人も多い。それはなぜなのだろうか。さらに原因を考えてみよう。
(2)小学校、中学校の理科の教科書を見てみよう。「面白くてたまらない。」「写真や絵が楽しい。」と言う声も聞かれる一方で「質問ばかりで答えが書いてないから、わかりにくい。」と言う人もいる。確かに理科の教科書では、「なぜか考えてみよう。」というページはかなり多い。
(3)ではどのようにしたら、理科嫌いから脱出できるのだろうか。どんなことでも興味が持てるかどうかが好き嫌いに結びつくのは、当然なことだと思われる。けれども理科については特に、「好奇心」があるかどうかということが分かれ道の決め手になる科目なのである。
(4)では理科、科学に近づく近道とは何だろうか。最も大切だ考えられることをまとめると
『身の周りの自然、現象について観察すること。なぜなのか考える体験をすること。』
である。
自然とは、私たち人間を含む生き物(動物も植物も、似ているけれど生物ではないウイルスも含まれる)、空、気体、液体、固体、地球、他の天体や宇宙、など様々な物がある。そして、身の周りには、熱や音や光や電流や重力や磁力、物が溶けること、全く違った性質の物に変化すること、他にもたくさんの現象がある。私たちは、身近な暮らしの中で、それらを見たり、聞いたり、体験したりして生活している。これらのことを意識的に体験することこそ、理科、科学へ近づく第一歩と言えるのではないだろうか。具体的にいくつか例をあげてみたい。
例@ 植木鉢に1本山椒か、柑橘類の苗を植えよう。春、夏、秋にアゲハチョウが卵を産む。気づかないうちに葉に穴が開いたり、数が減ったりしている。幼虫が、せっかく出ている葉っぱをむしゃむしゃ食べている。ああ!慌てて虫かごに入れて、それらの葉の餌を与える。ある日きちんと蛹になる。そして大きな羽を広げてアゲハ蝶に。花の蜜を与え、何日か観察したら、大空に逃してあげよう。
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例A メダカを飼おう。メス、オスの違いを卵からかえって三ヶ月くらいしたら当ててみよう。オスはメスを惹きつけるために、派手な大きな四角形の尻ビレや、切り込みがある背びれを持つ。メスは卵が入るとお腹が膨れる。卵を産んで死にやすいのはメスが多い。観察してみよう。水槽でメダカを飼っていて長生きしない理由を突き止めるのは、なかなか難しい。寿命もあるが、水質管理説が多い。食べ残し餌やフンがアンモニアをたくさん出して、分解されにくくなると、中毒になり、エラから呼吸ができなくなるという説が有力だ。塩素が入ってない水に取り替えることも大切だが、水質変化がまずい、という説も大きい。酸性にもアルカリ性にもかたよらないためには、身近に水の中性度を調べる薬を作ればいい。紫キャベツの葉を煮出した物で調べられる。紫色の液体が、酸性の水は、ピンクから赤。アルカリ性の水は、青から、緑、黄色になる。中性の紫色に近い水を保つために調べてみよう。
例B シーソーに乗ってみよう。中心(支点)から遠ざかるのと、近づくのと、自分はどちらが下がりやすいだろうか。なぜそうなるのだろうか。同じ太さのひごの真ん中をセロテープで糸を留めてモビールを作ってみよう。ひごの右端に10円玉を、一つ、二つ、といくつかぶら下げてみる。右回り(時計回り)にひごは下がって回る。では10円玉を右端ではなく、もっと中心に近い所にぶら下げると、どうなるだろうか。モビールの右回りの力はおもりをどこにつけると、傾きやすいのか試してみよう。ひごの真ん中ではなく、もっと左寄りに糸をつけたときの傾きも試してみよう。実際にやってみると、高校物理までピンとくるようになるものだ。
例C 実験らしい体験では無くても、小麦粉に水を混ぜて食べ物を作ることも、やってみるといい。そもそも料理は化学の実験だ。水が多い順から、少なくしてみると、もんじゃ、クレープ、お好み焼き、ホットケーキ、イースト菌を入れたパンなど固い塊になっていく。何の役に立つのだろうか。実は火山やそこからできる岩石の種類や性質をつかむ時に、ピンとくるかどうかの違いになってくる。火山は地下のマグマが噴き出してできる物である。出てくる溶岩の種類によって、流れやすい性質と、固まりやすい性質がある。白っぽい物は、ガラスの成分になる固まりやすい水晶と同じ石英などが多く含まれている。これでできた火山は溶岩ドーム型になり、激しい噴火からでき、形は北海道の昭和新山のように、こんもりと白パンのようだ。それに比べて、流れやすい黒っぽい玄武岩を含む溶岩は、ハワイのキラウエア火山のように平たい黒もんじゃのようだ。その中間にある富士山のような火山はバームクーヘンに似た塊と流れやすさが交互に重なった性質を持つ。実際に台所で体験していると、イメージがわきやすいものだ。
例D 家に乾湿球湿度計をぶら下げてみよう。湿らせた布に球が入った湿球は、隣に並ぶ普通の温度計乾球より温度が低い。二つが示す温度差が大きいほど湿度は小さくなる。水が蒸発して、目に見えない水蒸気になる時、気化熱という熱を周りから奪うので、低温になっていくからである。これは、私たちが発熱した時に汗をかいて熱が下がるのと同じ仕組みである。皮膚に汗を出す汗腺を殆ど持たない犬が舌を出して水を蒸発させたり、植物が暑くて乾燥した日に、葉の裏から水を蒸散させるのも、体温上昇を防ぐ同じ仕組みである。暑い夏に、濡れタオルを振り回すのも気化熱の同じ原理である。
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風はなぜ吹くのか?雲はなぜできるのか?音はなぜ聞こえるのか?電気はなぜ流れるのか?磁石はなぜくっついたり、離れたりするのか?自然界にはさまざまの現象がある。それらを、疑問に思ったり、利用できることを考えたりした先人たちが、人工知能を含む様々な人工物を発展させてきた。私たちは急速に発達した科学で作られた人工物を大いに利用して便利に暮らしている!
受験や学習とは、答えが決まっているものをどれだけ覚えているかを人と競い合って勝つものだと思い込んでいる受験生は多い。しかし、本当にそうだろうか。私たちもまた、身の周りの観察、体験を通して、身近なところから新しい科学の扉につながっていけるのではないだろうか。そして、「私たち人間もまた、生物の一員として自然の中で生きていく存在である」という視点を持ちながら、未来の扉を開いていこうではないか。 |