生物は受動的な選択がなされることが多い。
受験界では有名だが、「今でしょ」で有名な予備校の生物の大先生が生物選択の生徒たちに「物理が出来ない君たちがしょうがなく選んだのはわかっている。」と最初の授業で言いはなつことである。このように受験界では物理に比べて低い位置に置かれているように感じられる。というのも、物理ではもし解けた場合には100点になる可能性があり、生物では計算問題や論述問題があり高得点が期待できない。というような受験あるあるがささやかれていた。
たしかに、20年前までは物理選択の方が生物選択より優位であったことは否めない、しかし、現在では、物理と比べても遜色は見当たらない。
さらに、医学部に入った場合には生物の知識は2年のアドバンテージを得ることになる。入試の場合だけでなく、今の新型コロナ下にある状況に於いては、報道などでの感染症についての対応策を考える一助となるに違いないのである。
そこで、新型コロナに関連した事項を考え生物をはじめたくなるようにしたい。
[1]ウイルスについて
入試問題に「ウイルスは生物ではない理由を説明せよ。」
ここで言う生物は細胞質があり生殖して自己の遺伝子を残すものであるが、ウイルスは、細胞質は無く、外側のタンパク質と内側はDNAまたはRNAでできている。簡単に言えば肉がない。すなわち、遺伝子を後世に残すことに特化した体なのである。
大きさも大腸菌は3μmに対してエイズウイルスは100nmである。(μはマイクロで、nはナノでμはnの1000倍です)このように大きさをみても細胞質(タンパク質)で満たされているようには思われない。
ウイルスは他者の細胞にDNAやRNAを注入して細胞質を餌にしてDNAやRNAを複製外側のタンパク質も合成していくのである。
ここで細菌とウイルスというと北里柴三郎
野口英世という日本の生物界のビッグネームが想い当たる。やはり科学界の賞の最高峰ノーベル賞との関係を見てみたいと思う。北里と野口
両者共ノーベル賞に選出されてもいいように日本人としては思える。
北里柴三郎は破傷風の血清療法を確立した、これをまねしてベーリングがジフテリアの血清療法を確立してノーベル賞を取ることになっている。北里はコッホの研究所(ドイツ)で恩義からか血清療法をベーリングと共同提出しているのだ。破傷風もジフテリアも光学顕微鏡で観察できる細菌で構造も類似していたのである。
野口英世はロッフェラー財団に命じられた黄熱病の研究で生涯を終えることになる、ノーベル賞の候補にも3度あがり、本人も受賞を望んでいた。野口が命を落としてしまった黄熱病はウイルスなのでこの当時にはまだ光学顕微鏡だけで電子顕微鏡はない、ウイルス は光学顕微鏡では観察できない。そのため野口の論文はまったくといっていいほど現在参考にされることがないのである。その面では、ノーベル賞受賞がなかったのことはさいわいとでもいうべきか?
当時は、ノーベル賞は欧米人中心の賞であり、極東の小国、黄色人種には受賞は難しいのである。
光学顕微鏡と電子顕微鏡の分解能を比べてみると0.2μm、0.2nmである。ウイルスを観察するには電子顕微鏡の登場を待たねばならないのである。
理系では機械は最新で最高なものを提供してもらいたい、「2番ではダメなのです。」
[2]DNAとRNAについて
入試問題には、「遺伝子の本体は(1)であり(2)構造をしている。」のような空欄補充問題がある。もちろん、遺伝子の本体はDNAである。これは耳がいたくなるほど言われている。そして、人は教えられた通りDNAが遺伝子の本体であり分子量 106から109で二重螺旋構造をとりセントラルドグマにより分子量105から106で1本鎖のRNAを仲介としタンパク質を生成するのであるが、RNAが遺伝子の本体になるウイルスもあるのである、ときには、タンパク質が遺伝子(補助)になることが知られている。二重螺旋と言えばワトソンとクリックがノーベル賞を受賞をしている。我々はDNAは必ず二重螺旋であると思っているが、実際はA型とB型がありB型は二重螺旋であることは、ワトソンとクリックの論文が出る前からロザリンド.フランクリン(英)の研究でもわかっていた。しかし、彼女は「何故少なくとも二つの型があり違ってしまうのか」などの統一理論を考えていた。ということは、DNAは100%二重螺旋であるということはないのである。
当時ロザリンド.フランクリンは最高のDNAの研究者であったため、研究で後陣を配していたワトソンとウイルキンスに二人をバカにしたような振る舞いを何度もしていた為に、彼らは反フランクリン同盟を結んでいた。
そして、ウイルキンスは私的なルートから、B型DNAの立体写真を手に入れ、ワトソンにも見せたのである。このあとワトソンとクリックの論文がB型DNAだけで出され、フランクリンを出しぬき、なんとDNA研究の第1人者となり今のようにDNAは必ず二重螺旋のようになっている。ウイルキンスはワトソンとクリックのように熟語化はしていないがワトソンとクリックと同様1962年ノーベル賞を共同受賞している。
学問でも、男の嫉妬からの女性差別が起こるのは少なくはないのである。
[3]PCR法について
入試問題だと、「PCR法の原理について次の問いに答えよ?ただし( )には適当な数字を入れよ。
問1、16塩基のプライマーと同一配列がヒトゲノム中に何個存在するか?期待値で答えよ。ただし、ヒトゲノムは30億塩基対とし、A 、C、G、T、は等確率で存在し、210と103は等しいとする。
問2、1サイクルの温度の変化は約(1),(2),(3)の順である。単位も付けて答えよ。
問3、第nサイクル後には、増幅したい領域と同じ長さになる1本鎖DNA断片は(1) 個、2本鎖DNAは(2)個になる。」
DNAは半保存的複製をする。PCRは温度を上げて半保存的複製を強制的に実行させる。すなわち、約95度で2本鎖DNAを1本鎖ヌクレオチド2本に解離させる。次に約60度でヌクレオチド鎖にプライマーを結合させる。また次に約72度でDNAポリメラーゼにより、新しいヌクレオチド鎖が合成される。これを繰り返し行うと増幅したい領域が生産される。第nサイクルの1本鎖ヌクレオチドは 2n+1個これからはじめの2本とこの2本が作った少し短いヌクレオチド鎖が2n本あるので増幅領域は (2n+1-2n-2)個
2本鎖は(2n-2n)個になる。
問1は純粋に数学の問題である。プライマーはA G C Tで16連続するので 416 通りある。よって、
30×2億÷416
=60億÷232
=6×109÷(4×109)
=1.5
さてPCRはだれが開発したのだろうか?実はノーベル賞を受賞している。1993年ノーベル化学賞である。当時、ベンチャー企業シータス社に勤務するカリイ.マリスである。PCRの機械が開発されたのは1983年であるので、たった10年でノーベル賞を受賞した。選考委員の期待が現れている。
このことから日本人で想い浮かぶのは、島津製作所勤務の田中耕一、iPS細胞を製作した山中伸弥である。田中は世界初研究所ではなく民間の会社所属で、2002年タンパク質の質量分析法のための光の利用での脱着イオン化法の開発で受賞。山中は2006年に山中因子を導入して培養したiPS細胞を製作して、2012年ノーベル賞受賞なんと6年しかたっていないにもかかわらずだ。ノーベル賞選考委員が将来に役立って欲しいという希望が見えてくる素晴らしい判断であった。
(青色発光ダイオードで2014年ノーベル物理学賞受賞した中村修二も日亜化学に在籍していたが、のちに権利の所有で裁判になり、和解した)
[4]免疫について
入試問題だと「脊椎動物の獲得免疫には、抗体が中心であるものと、T細胞が直接関係するものがある。次の問いに答えよ。
問1、抗体が中心である免疫について
(1)この免疫はなんと呼ばれているか。
(2)抗体産生を促進するT細胞は何か。
(3)抗体が含まれる血清成分は何か。
(4)抗体は2種のポリペプチドで構成される、それらの名称をそれぞれ答えよ。
(5)抗体を利用した治療法は何か。
問2、T細胞が直接関係する免疫について
(1)この免疫はなんと呼ばれているか。
(2)骨髄から出たリンパ球がT細胞になる器官は何か。
(3)この免疫で抗原を直接攻撃するT細胞は何か。」
免疫は体液性免疫と細胞性免疫に分けられる。
体液性免疫は脾臓で成熟したB細胞が関係してヘルパーT細胞にインターロイキンで活性化され免疫グロブリンを産生する。免疫グロブリンはタンパク質でY字形をしており外側の2本がL鎖でいろいろなペプチドが結合して抗体と結合する可変部、内側の長い2本がH鎖で不変の定常部からなる。免疫グロブリンを含む物質を血清といい、破傷風、まむしやはぶに咬まれた時などに有効であるが二度目はアナフラキシショックで重体に陥ってしまうのが血清療法で、いま話題のワクチン療法は不活化や弱毒化した病原体などを予防接種し記憶細胞をつくることで感染症を予防する。
細胞性免疫は胸腺で成熟したT細胞がキラーT細胞になり、ヘルパーT細胞にインターロイキンで活性化され直接攻撃して抗原を排除する。
免疫グロブリンと言えば1987年利根川進が
H鎖とL鎖における可変部遺伝子断片の再構成の研究でノーベル医学生理学賞を受賞した。入試問題でよくでる計算問題として有名である。化学のビニロンもそうであるが、日本人が開発した事項はしっかり覚えよう。
ノーベル賞のエピソードを盛り込みました。面白いでしょう。生物って直接我々に関わってくることが多い興味があればその奥の方も覗ける。入試的なことだけでなく、積極的に学んで生物を楽しもう。
(本稿は、筆者の希望により、筆者の原稿をほぼ校正せず基本的にそのまま掲載したものです。)
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