はじめに、こんな状況を考える。父と母が、昨日の夕食後のコーヒータイムにある会話をした。それを聞いた娘のベティ―(Betty)が、あなたに今日報告した。
Betty: Father told Mother that she was very beautiful.
さて、このとき、お父さんの言葉を聞いたお母さんの反応は、どれが妥当か。
@ とても喜んだ
A 少しむっとした。
夫婦仲にもよるので一概にこれ、とは言いづらいが、おそらく反応は@だろう。Aを答えに選んだ方は、さて、元の会話をどのように考えたか。
B Father: Hey, Honey. You are very beautiful.
C Father: Hey, Honey. You were very beautiful.
これはareかwereかの違いだけではあるが、伝える意味がかなり違う。Bは素直な誉め言葉であろう。たぶんそのはずだ。しかしCはどうか。パートナーに「お前はとてもきれいだったなぁ。」といわれて喜ぶ奥さんもいようが、「だったなぁ」は「今は違う」の意味を含むことが多い。聞いたお母さんは「じゃあ、今はどうだというのよ!ちょっとあんた!」と嵐が起こる。
つまり、Cはとても危ない一言である。これを選んだら反応はAになるはずだ。しかし答えは@.お母さんはとても能天気だったから、というAはまずありえまい。
でもまてよ?例文は”she was ~”じゃないか。確かにそうだ。しかし、実際の会話はB。ここに、英語と日本語での時制のとらえ方の違いがある。
英語で過去形の動詞を使ったら、それは「過去」だけれども、必ず今の自分を「起点」にした「過去」になる。
それに対して、日本語で過去の助動詞「た」を使ったら、それは「過去」だけれども、話の「話題」を起点にした「過去」である。
例題で考えよう。
Father told Mother that she was very beautiful.
初めに確認。文中のsheはMotherのこと。客観的に見てsheと使っている。それでそのあとのwasだけれども、これはBettyが話した時から見た「過去」であって、Father told... のtoldと同時なのだ。つまり、Bettyにとってはどちらも同じ時期の事柄で、言い換えれば
Father said to Mother, “You are very beautiful.”
ということ。現在のお母さんをほめているので、普通母は喜ぶ。だから@なのだ。
ポイント
英語では、「話者の発話」を起点にして時制を考える。
「時制の一致」とよく言われる現象だが、「話者の発話」に時制を一致させろ、ということだ。だから、発話の動詞が過去形(saidやtold)だったら、それ以降過去形は、「同時」として意味を取らないといけない。
それに対して日本語は、話題のほうに基準を合わせてしまう。だから例文の訳が「父さんは母さんに、彼女がきれいだと言った。」になる。
比較しよう。
Father told Mother that she was beautiful.
(toldと同時の過去形)
父さんは母さんに、彼女がきれいだと言った。
(「言った」と同時の「現在」)
それでは逆に、「彼女はとてもきれいだった」というにはどうするか。疑問は当然。このように、told時点よりさらに過去にずれ込むときには大過去を使う。形は過去完了形(had+過去分詞)。
父は母に、彼女はとてもきれいだったと言った。
Father told Mother that she had been very beautiful.
= Father said to Mother, “You were very beautiful.”
「大過去」とは、過去よりさらに古い過去、という意味。
では、練習してみよう。
練習
( )に適する語を入れて、日本語の意味の英文を作りなさい。
基本
彼は、それは彼の本だと言った。
He said that it ( ) his book.
普通
都知事は、われわれに自宅待機せよといった。
Tokyo Governor said that we ( ) to stay home.
上級
委員会は2020オリンピックが延期されるだろうと言った。
The committee said that the 2020 Olympics ( ) be put off.”
答えと解説
基本 was
He saidと時制を合わせるが、主語はitなので。
普通 had
~ saidと時制を合わせるが、かっこの右にtoとあるので。
上級 would
〜saidに時制を合わせるが、未来形はどうするか。willは形だけ過去形にする。未来形の過去形とは何ぞやと悩むが、単純に形だけ合わせる。 |