公立高校の入試は、各都道府県の地域性が、傾向に色濃く出る。
筆者は一昨年、埼玉県の受験生、昨年から今年の年初に沖縄県の受験生を指導した。そこで、両県を比較の視点としつつ、過去7年分のうち、入手できた6年分の都立高校の入試問題を検討してみた。調査書300点という点からは、一般論だが、通常点が重要である。学力検査は各科目100点であるが、傾斜配分される学校もあるため、基本的な問題は失敗出来ない。この点は、埼玉県、沖縄県とルールが違う。傾斜配分される学校では、漢字の読み、書き取りが素点で合計20点出題されているため、換算後、30点分の配点になることがある。国英が2倍となる松が谷高校の英語科は、この漢字の問題が2倍に換算されて、40点となる。
以上、まず漢字を例に、都立高校の入試の特殊性を認識した対策の必要性を示して、国語の対策の重要性を意識して、勉強のきっかけを掴んでもらう点を目的とする。
過去7年分の過去問のうち入手できた6年分を分析した結果、全く出題の無い分野、出題の可能性がほぼ低い分野で、以下の分野は後回ししていいと言える。
1 随筆 日記 手紙
2 韻文→詩、和歌、短歌、俳句
3 敬語・表現技法・品詞
4 文学史
以上の分野は、パレートの法則から、力を入れては、むしろいけない分野である。
論説文1 文脈、接続語、指示語、段落の関係は頻出。
2 文章内容=筆者の意見の読取りは頻出。
3 各年度の出典
@H25 佐藤京子『居住の文化史』 10段落の引用
中学受験の中堅レベル 沖縄県、埼玉県よりも長い。
AH26 長谷川眞理子『生態学から見た持続可能な社会』 11段落の引用
中学受験の理系重視、女子校の中堅レベル以上 沖縄県、埼玉県ではあまりない理系の文章。
BH27 笹山 央『現代工芸論』 10段落の引用
中学受験の文系寄り、中堅を上位とする共学レベル 沖縄県、埼玉県は、出題しない素材文。伝統工芸に理解のない通常の中学生には内容が合致していない。内容に入れなかった受験生は、勘でマークしたと思える選択肢構成で、差がついたであろう。
CH28 名児耶 明『書の見方』10段落の引用
中学受験の中堅共学校のような素材文選択。クセがない。ただ、公立の中学生にとっては『書』ということで、受験生が萎縮する内容でもある。歴史に興味が湧かない受験生や、書の流れに関心のない受験生は、文章に入って行けなかったと推察される。
DH29 原田信男『日本人はなにを食べてきたか』18段落の引用。
中学受験の上位校の共学校のような素材文選択。沖縄県、埼玉県では、素材文がこのように長く引用されることが少ない。分野が考古学、食物史、食文化に及び、『衣食住』という基本的事項が素材になっており、日常生活から、国語のセオリー通りに、論理的に解答に至るアプローチが、必要。テクニックで解けなくはないが、考えようという解答姿勢が、本質的に重要なアプローチかと思う。
E2019 國分功一郎 『中動態の世界』17段落の引用。
中学受験の上位校、女子校のような素材文選択。
沖縄県、埼玉県は、『意思』のようなものを主題とする抽象論を素材文にすることは、あまりない。公立の中学生の受験生で、特に男子で国語が苦手な層は、読みはじめて、即死、秒殺させられて、頭が白くなってしまったんではなかろうかと思われる。大学受験で出されても、不思議ではない内容。問5は、素材文の内容と相まって拷問のレベル。
上記の分野を踏まえると、事前準備として必要と言えることは
@段落分けを素早く終える形式的作業力の構築
A接続語、指示語に注意した慎重な読解力の構築。
B文末表現、比喩表現を汲み取る慎重な読解力の構築。
Cパラグラフリーディング、段落の繋がりを意識した読解力の構築
以上の4つが、根底に必要である。
沖縄県、埼玉県よりも、説明文の読解は、出題のレベルは高い。しかし、東京の中学受験入試ほどは、難解な論理操作はない。但し、個別に作問、グループで作問している各都立高校は、個性を発揮した出題をしている点は、強調したい。
一律な都立高校入試対策があてはまらない、個別、具体的な出題がなされている。
私見だが、日比谷、戸山、白鴎、両国、青山、富士、西、大泉、八王子東、立川、武蔵、国立等では、そのような個性的出題がなされていて、問題分析は楽しい。
ここでは、紙面に限界があるため、指摘にとどめる。これらの都立高校入試対策はプロの指導が必要と思われる。
では、埼玉県の上位校、浦和、大宮、川越、春日部、所沢、熊谷、松山等はというと、問題を県教育委員会が用意した難易度の高い別の問題を用意して解かせている。
埼玉県の場合は、個別とか、グループではなく、全県単位で問題を用意している。
更に、沖縄県では、どうかというと、グループ、個別、全県で特に特別な問題を用意してはいないが、埼玉県、東京都では出題されていない漢文を、古文漢文融合問題で出題していて、選抜できる仕組みがある。これによって、現代文では、受験生に尋ねられない古来の中国や本邦、沖縄の考え方を尋ねる問題構成になっている。
論理を問う説明文で尋ねにくいものを、他の出題で問うていることがあり、沖縄県立高校入試の設問に、かつての独立国としての琉球の矜持を感じさせる部分がある点を指摘したい。
物語文1 問われる内容
物語文では、比喩表現等の表現、登場人物の心情、登場人物の性格が必ず問われる。心情語や性格を表す言葉を覚えて、平素から語彙の力を高める必要がある。
このように書かれても、ピンと来ない受験生もいるだろう。例として、漫画ドラえもんの名脇役、剛田武君を思い出せるだろうか?
剛田武君と言われて、ジャイアンを連想した時、得意の歌で町内のネズミ9999匹、ゴキブリ99999匹を瞬殺したジャイアンという思い出し方をしただろうか。この時、いろいろな性格を表す言葉と共に、ジャイアンを連想したと思う。
『乱暴な性格』『お母さんに逆らえない弱い部分もある』『リサイタルの客集め等では、独善的』『なぜか、映画の中では、勇敢、リーダーシップを発揮出来る責任感のある性格になる』とか、皆さん、それぞれに発想したと思う。
筆者は、従姉から『ベルサイユの薔薇』とか『ハイカラさんが通る』を借りて、セリフと場面描写から、登場人物の心情や性格を20字で書き出してまとめるトレーニングをしたことがある。手持ちの漫画の登場人物で、試して見てもいいかと思う。その上で、活字だけの小説を読むという方法もある。
2 各年度の出典
@H25 稲葉真弓 『唇に小さな春を』
東京都ではあるが、舞台は伊豆諸島最大の火山島で、有人の島、大島を舞台にしており、東京都らしい出題。引用されている分量は、やや多い。周囲の光景が、登場人物の心情にリンクしており、読み物としても楽しめる。問5の記述式は、良問で、中学入試でも見かける形式。
AH26 長野まゆみ『夏帽子』
季節感が、登場人物の心情にリンクしており、良問。場面描写は秀逸で、登場人物の心情の読み取りに役立つ。問5の記述式の問題は50字で、問われている内容を見ると、差がつく問題である。
BH27 原田マハ『斉唱』
舞台は、新潟県佐渡島、朱鷺の体験学習に参加した中学2年女子が主人公。心情表現の読み取りの各設問は、良問。問5の記述式は50字で、問われている内容を見ると、差がつく問題で、主人公の立場に立って心情を答える問題。
CH28 伊集院静『どんまい』
舞台は伊予灘に面した町、主人公は野球少年。
設問構成に変化があり、30〜50字の記述式の問題が物語文からは消滅し、説明文において200字の記述式問題になった。このため物語文では、手早く設問を片付けていく必要がある。
DH29 あさのあつこ『一年四組の窓から』
主人公は画家志望の中学2年男子。
設問構成は、前年を踏襲している。登場人物の心情の読み取りは、手早く出来るように訓練して、時間を稼ぎたい。200字の記述式問題が説明文であるため、物語文の時間配分に注意する必要がある。
E2019 三浦哲郎『燈火』
引用されている分量が増えた。設問構成は、前年の形式を踏襲している。読む分量が増えた分、解答にかけられる時間が減るため、心情の読み取りを効率的にする必要がある。200字の記述式問題が、説明文にある点に変化はない。
物語文は、以上のように問題構成が変わって、次が4年目になる、近時の問題構成に対応した模擬試験で、時間配分の練習をして欲しい。
古文、漢文
東京都立高校の問題構成として、最も特色があるのは、五 Aで、ある作品についての座談会の記録を引用して、BではAで座談会の対象となった作品についての文章が引用された上に、点線網掛けの中に、その作品の現代語訳が引用されている点である。
設問は四問であるが、処理する情報量は多い。現代語訳を上手に利用して、効率的に解答する練習が必要である。
沖縄県の古文、漢文も現代語訳が付されているが、国語の試験で、資料読み取り型の作文があるため、東京都立高校入試ほどは、分量は少ない。漢文は基礎的な返り点を入れる問題が出されているが、東京都立高校入試では、漢文はほとんど出題されていない。【2018年に、夏目漱石の漢詩が引用されているが、現代語訳が引用されている】
ちなみに、埼玉県は、最後の大問が作文のため、古文の出題は10点分しかない。
各年度の出典
@H25
五A 稲田利徳、千本英史、小林一彦、浅見和彦『方丈記八00年』→座談会
五B 堀田善衞『方丈記私記』
神田秀夫、永積安明、安良岡康作『方丈記・徒然草・歎異抄』→現代語訳
AH26
五A 馬場あき子、水原紫苑『伝統を継ぐ、歌とつながる』→『百人一首』の座談会
久保田淳、平田喜信『御拾遺和歌集』→現代語訳
五B 神作光一『百人一首の文化史』
問5に、25〜35字の記述式の問題がある。
BH27
五A 梅原猛『梅原猛の授業 能を観る』→能『安宅』の解説文
五B 大槻文藏、天野文雄「『能』という演劇」→座談会
五C 『能を読むC 信光と世阿弥以後』→能『安宅』の台本の一部引用と現代語訳
問5に、25〜35字の記述式の問題がある。
CH28
五A 木越隆「『枕草子』の性格」→講演の記録
『日本古典文学体系』→講演で引用された枕草子の原文の一部
五B 『新編 日本古典文学全集』→五Aの現代語訳
問5に前年まであった25字〜35字の記述式問題は消滅した。
DH29
五A 『新編 日本古典文学全集』→松尾芭蕉の俳句を引用
森澄雄・廣田二郎『芭蕉と現代』→座談会
五B 『芭蕉全集』→支考(芭蕉の弟子)が書いた芭蕉の俳句についての文章と現代
語訳
前年の問題構成を踏襲している。
E2018
五A 陳舜臣、石川忠久『漢詩は人生の教科書』→漱石の漢詩についての座談会
五B 和田利男『漱石の漢詩』→漱石の漢詩の引用と現代語訳
前年の問題構成を踏襲している。
F2019
五A 白洲正子、大岡信『桜を歌う詩人たち』→桜を題材にした和歌についての対談
五B 『新編 日本古典文学全集』→対談で出てくる『伊勢物語』の『渚院』の原文の一
部と現代語訳
前年の問題構成を踏襲している。
以上を踏まえて、東京都立高校入試の古文、漢文の対策は、現代語訳を利用して、効率的に、原文の対応箇所を発見する力を持つことが重要である。選択肢の問題が多いので、落ち着いて解答して欲しい。
古典は、教科書に出てくる作品の現代語訳が付されている本を、日頃から読んでおくという方法も、1つの手であろう。
まとめ
東京都立高校入試の国語は、埼玉県、沖縄県と異なり、作文が国語の試験の中で問われることがないため、国語の基礎学力を見る点に、力点が置かれている。教科書の復習や、ワーク等の副教材の復習に重点を置くことが望ましい。
沖縄県立高校入試では、義務教育の総チェックと位置付けているのか、小中学校で習う内容を上手く散りばめて、設問を構成しており、義務教育における基礎的内容を意識できる。このような設問構成を取らない東京都立高校入試においても、小中学校を通して得た基礎知識の確認と、基礎知識を利用して解く姿勢を取れるように、平素の学習をする必要があるだろう。
別途、課される作文、小論文は、200点、300点と高い配点があるため、試験対策が別途、必要である。
更に推薦入試では、50〜450点と、学校によって、作文、小論文の配点が変わるので、志望校が決まり次第、直ちに対策をする必要がある。国語の200字記述式問題の対策も兼ねて、新聞のコラムをまとめるトレーニングや、自分の意見を書くトレーニングをする方法もある。夏休みや連休など、機会があれば試して欲しい。 |