ing.先生: とつぜんだけど、Aちゃんは俳句つくったことある?
A: 学校の宿題でならあるよ。季語だのなんだのってメンドイんだよね。
i.: やっぱり宿題か。読書感想文でもそうだけど、宿題ってきくだけでキライ! って思う子多いよね。今日は季語とか難しいことは忘れて、とにかく575のリズムで遊ぼう。 題して「ジョー句の細道」。
A: げっ。「奥の細道」のパクリ。
i.: ま、そういうこと。和歌の掛詞だってしょせんは駄洒落。まずは言葉遊びを楽しもうって趣向だよ。
今回は、仲間の家庭教師や元学校の先生たちにも協力してもらった。先生と言ってもみんな俳句はド素人のオジサン、オバサン。なにせジョー句だからね。
A: なんとなくおもしろそうになってきた♪
i.: じゃ、『奥の細道』の旅立ちの句から始めるよ。
草の戸も住みかはる世ぞひなの家 芭蕉
住み慣れた庵をひとに譲って旅立つ。この粗末な家にも新しい家族がはいり、桃の節句には雛を飾るだろうという内容。
「ひなの家」を下5に付けて詠んでみよう。江戸時代にも「雑俳(ざっぱい)」という言葉遊びの俳諧があって、下5に付けるのを「沓付(くつづけ)」というんだよ。
では沓付のジョー句を二つ。
大所帯30段の雛の家
長生きや婆々ばかりの雛の家
A: 知ってる! 鴻巣市の30段の雛人形。日本一なんだよね。
婆々はあんまりだけど、まえに老人ホームに行ったらおばあさんばっかだった。
そんなのでよかったらカンタンだ♪
弟もお客様だよ雛の家
i.: おっ。即興だね。三月三日は女の子の節句。この日は自分の家でも弟がお客様に見えるかもね。
では次にいってみよう。
下5に付けるのが沓付なら、上5に付けるのを「冠付(かむりづけ)」というんだよ。
風流の初めやおくの田植うた 芭蕉
「奥」は奥州。白河の関を越えたら田植え歌が聞こえてきた。「風流の」の冠付で。
風流のゆとりは持てぬ忍び逢い
風流のとどのつまりは独居かな
風流の旅は妻子を蹴倒して
A: なんだか大人の悲哀がじわじわと伝わってくるような…。
風流の意味はわからぬまだ子ども
i.: そう逃げたか。でもなかなかいい調子。そのノリでじゃんじゃん作っていこう!
次は折句(おりく)。575のそれぞれの頭の音を決めて詠む方法。和歌で有名なのが『伊勢物語』に出てくる「かきつばた」の折句。各句の最初の1字に「か・き・つ・ば・た」を付けて詠んだのがこれ。
唐衣(からごろも)
きつつなれにし
妻しあれば
はるばるきぬる
旅をしぞ思ふ
意味は省略するけど、57577の各句の最初の音に「かきつばた」が入ってるでしょ?
同じ要領でジョー句を作ってみよう。
あらたふと青葉若葉の日の光 芭蕉
日光東照宮に参詣した時の句だね。「わ・か・ば」の折句でいってみよう。
わたがしを
買ってとせがむ
ババの背に
若き日の
香りも色も
貘(ばく)の餌
A: やっぱりオバサンだなぁ。
わたしでも
風邪をひきます
バカだけど
こんなんでいい?
i.: 上等、上等! バカじゃできない。
あとは地口、ようするに語呂合わせの駄洒落みたいのだけど、雑俳の主な言葉遊びのパターンはそんなところかな。地口の例は宿題を見てね。
さて、これはあくまでジョー句。堅苦しいルールはとっぱらって、とにかく575になればいいってことで…
卯の花をかざしに関の晴れ着かな 曾良
句の意味は前回国語、松本先生のe講座で解説しているから開いてみてね。
「晴れ着」を入れたジョー句。
傘寿でも舞ふは艶やか晴れ着かな
ちらし寿司米粒達の晴れ着かな
ハナバチは花粉まみれの晴れ着かな
いざ合コン今宵勝負の晴れ着かな
A: 五月雨にジューンブライドの晴れ着かな
i.: ジューンブライドは女の子の憧れだけど、日本は梅雨で大変。見るほうには五月晴れみたいに爽やかだね。
曾良の句をもう1つ。
松島や鶴に身を借れほととぎす 曾良
松島で芭蕉は句を作っていない。曾良は、ホトトギスよ、松島のすばらしい眺めにふさわしい鶴の姿を借りて鳴き渡ってほしいと言っている。
「身を借(る)」を詠みこんだジョー句。
一睡の恋は乙女の身を借りて
小笠原鯨に身を借れ群れ鰯
A: 制服は美女の身を借る学校案内
字余り!
i.: 「制服が可愛い−!」って私立校を選ぶ子がよくいるけど、可愛いのは制服じゃなくてモデルだったか…。
涼しさをわが宿にしてねまるなり 芭蕉
「涼しさを」の冠付。
涼しさを求めて寝返りどこまでも
涼しさを口に頬張るデカ氷
涼しさを土産に出てこい雪女郎
A: 涼しさを求めてさまよう座敷犬
i.: ジョンは毛皮を脱げないから暑そうだよねえ。ゴールデンレトリバーの座敷犬てのもすごい!
笠島はいづこ五月のぬかり道 芭蕉
陰暦五月は今の六月だから梅雨のころだね。
「いずこ」を詠みこんで…
若き日のくびれはいづこか確かここ
九輪草はいづこ水車小屋の辺り
早暁に姿はいづこ時鳥(ほととぎす)
A: 老眼鏡はいずこ無いはず額の上
おばあちゃんがよく、眼鏡をおでこに乗せたまま探してるよ。
i.: あるある! パンツ探してたら、もうはいてたとか…。
A: ないよ!!
i.: 次いく。
世の人の見つけぬ花や軒の栗 芭蕉
栗の実は人気の秋の味覚だけど、花はあまり目立たない。
「見つけぬ」を詠みこんで1句。
隣人の見つけぬ香り門の薔薇
A: 世の人の見つけぬパチンコ当たり台
i.: えっ!!??
A: ふふふ…。わたしじゃないよ。パチンコ好きの人から聞いた話。
i.: ああ、びっくりした!
でも、さすがAちゃん、のみこみが速いね。毎日メールする友達何人かとワイワイやるのもおもしろいから、ぜひためしてみて。
A: うん。宿題とか勉強とかじゃなくて、言葉遊びだと思うと日本語ってすごく楽しい。
ケータイの電波でジョー句が駆けめぐる
i.: 芭蕉辞世の句が「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」――芭蕉翁の夢も、とうてい電子メールまでは思い至らなかっただろうね。
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