受験生の皆さん、高校生の皆さん、新年明けましておめでとうございます。
東日本大震災で被災された地域の方々には、心よりお見舞い申し上げます。
さて、今回は「必要条件を集めるとは?」というテーマで、少しばかり思うところを述べてみたいと思います。
まずは、具体的な問題を俎上に載せてみましょう。
東京女子医科大学(2008年度第4問、一部改題)の問題です。解答できそうな人は制限時間20分で解いてみてください。
このパターンは、やや厚めの参考書であれば、典型的な問題として収録されているかと思います。名付けて、「一般項を推測して帰納法で証明するパターン」とでも言うのでしょうか。個人的には、とても愛着のある問題です。その理由は後で書きます。
範囲は数列(数学B)で、おそらく漸化式の後に出てくる解法ですので、漸化式で暗礁に乗り上げてしまっている生徒さんにはちょっときついかもしれませんが、漸化式よりとっつきやすいとは思います。というのは、このパターンの問題は、n=1,2,3と、こつこつ問題の指示通りに入れていき(ここまでは通常、誰でも出来るはずです。やってみてください。)、その3つの結果をジィ〜〜と睨んで「一般法則」あるいは「規則性」を見つけることになります。(この辺のところは、中学受験を経験された人はとても懐かしいと感じるでしょう。最近の中学受験は、こうした規則性を主体的に発見させる問題が好きです。)自然数のnを使って、一般項を見出してください。
さて、うまく規則性を発見できたでしょうか?出来なかった人は、解答をみて「あぁ、なるほどね・・・」という感じでいいでしょう。類題は、他にもあるでしょうから、自分で探して一般項を推定する練習をしてください。その際使う公式は、等比数列や等差数列などの基本公式がほとんどでしょう。
(2)では、(1)で推定した式を使用することになりますが、国公立大学等の記述式の試験では、これを「数学的帰納法で」きちんと証明してから使わないと減点対象になります。
何故か?ここが、本日のテーマ「必要条件を集めるとは?」につながります。そこで、この問題の構造を分析してみましょう。
?@ n=1,2,3まで計算させて、一般項を推定させる。この一般項を仮にF(n)とでもおいてみましょう。つまり、この段階でうまく一般項を推定できれば、n=1,2,3ならばF(n)は正しい(真である)と言えます。この命題を仮にAとします。このとき、通常の感覚の持ち主ならば、もしかしたらn=4以降ではこのF(n)は成り立たないかもしれないという不安がよぎります。
?A しかし、本問ではすべての自然数の一般項を暗に要求しています。すなわち、nがすべての自然数ならばF(n)は正しい、と言えないとだめです。かなり厳しい要求です。仮にこの命題をBとしましょう。
?Bそうすると、今、「もし仮に命題Bが真であると証明できれば」、BならばAが真となります。Aはこの場合、Bにとっての「必要条件」になっています。つまり、本問でn=1,2,3でF(n)を推定させたのは、十分条件の命題Bを導くお膳立てのようなものです。これを「必要条件を集める」とか言います。ここで賢い皆さんはお気づきかと思いますが、命題Bは「数学的帰納法」によって証明できるはずです。首尾良く証明に成功すれば、本問で要求されている、すべての自然数で成立する一般項が求まることになるわけです。
さて、初めに述べましたように、本問をじっくり考察していると、昔、私が大学院で研究の真似事をしていた時の懐かしい感覚を呼び起こさせます。
研究には必ずテーマがあります。テーマは理科系の場合でも文科系の場合でも詰まるところは、命題の形で意識されます。
思い込みも含めて、Xという実験データからYという法則がでるはずだと。あるいは、Yという結論を言うためにはXという実験データ(必要条件)だけではまだ弱いのではないかとか。
ドクターコースの学生の頃、他人が書いたある医学会への投稿論文を査読する機会がありました。その時、一番注意して読んでいたのは、このデータ(必要条件)だけで、この結論(十分条件)は妥当なのかどうかという点でした。掲載を拒絶せざるを得ない論文の殆どは、結論の妥当性が疑わしい。つまり、必要条件の吟味が足らないのです。集合で言えば、十分条件は必要条件の部分集合であり、必要条件をいくら集めても、それが十分条件を満たすには見当外れの場合は起こりえるのが通常。先ほどの問題の例で言えば、n=4以降は調べなくてもいいの?ということでしょうか。さらに喩えればn=4の時にそれまでの一般式が全く成り立たなくなる可能性もあると言うことが十分に検討されていないで、焦って結論を急ぎすぎる。こういったことは、先行研究の論文をじっくり検討せず、またデータも満足に集めないのに早合点して自分勝手な結論に飛びつくということにつながっていくものでしょう。また先行研究と言うことで言えば、海外の論文を原書のまま読む力も必要になってきます。現実の自然科学等の研究では、今回取り上げた、伝家の宝刀のような「数学的帰納法」なるものはありません。粘り強く、辛抱強く、こつこつと積み上げていくしかありません。
話は飛躍しますが、昨今、理科系離れが深刻との記事をよく見かけます。私も心配です。理科系離れとは、先人達が必死になって考え、残してくれた強固な知的建造物をないがしろにすることだと思います。先人達との濃密なコミュニケーションを図れなくなれば、現実の人間同士のコミュニケーションも表層的になっていくでしょう。空疎な孤独は深まるばかりです。
理科系を目指す皆さんは、こういった入試問題からでも大学側が期待する思考方法を意識すべきです。大学側も漫然と問題をチョイスしているわけではないはずです。そこには、はっきりした受験生の皆さんに向けられたメッセージが込められています。そのメッセージをしっかり受け止め将来の自分を想像しながら、学習を進めていただきたいと思います。
それでは年頭に向けて、皆さんの、今年一年の大いなる飛躍を期待しております。
がんばってください。
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