禁多浪先生 |
「“お伽”というのは、退屈な時とりとめのない話をし合うということなんだ。室町から江戸にかけて400種ほど作られた中から、2〜30種選んで江戸時代に出版された。話し言葉で書かれ、絵も入りわかりやすい。絵を描く人、話す人と専門に仕事をする人もいたそうだ。じゃ、うさ子君から始めよう」 |
うさ子 |
「わたしは“鉢かづき姫”というのを話してあげるわ。これは河内の国(大阪府)交野(かたの)を背景に描かれた作品で、備中守の夫婦に子供がなく、何とかして子供を授かりたいと、奈良にある長谷観音にお参りして願掛けをされたところ、ついに女の子が一人授かったのよ。それで夫婦がよかった、うれしかったと喜んだのも束の間、母親があっけなく病死したというわけ。亡くなる時、母親がその女の子に『この鉢を頭にかぶっていれば、長谷観音さまが守ってくださる』と、鉢をかぶせた。ところがその鉢はいつになっても取れず、やがて父親が再婚し、女の子は継母にいじめられていたのよ。それで女の子はとうとう家出して、国司の家で風呂焚きの仕事をさせてもらうことになったのよ。その家には子供が4人いて、末っ子だけがまだ結婚していなかったのよ。その末っ子は心根もやさしく、ハンサムだったんだけど、女の子は風呂焚きの仕事に夢中。でも、その末っ子の男性が彼女に一目ぼれしたわけさ。なに、コン助、笑ってるのよ。もう、私はここまでにしておくわ」 |
コン助 |
「みんな、まじめに聞きなさい。それじゃ、続きはワシがしてやろう。3人の男性のそれぞれの嫁は、鉢かづきを末っ子がかわいがるのでやきもちを焼いて『私たちとあの子とで嫁比べをしよう』ということになった。鉢かづきは思ってくれる相手に迷惑をかけるので、逃げようとした。末っ子もそれなら一緒に逃げようと言い合っていた時、鉢かづきの鉢がグラッと緩み、取れてしまった。『ああっ!』その時、鉢かづき姫の愛らしい顔を見た末っ子は驚いてしまった。嫁比べが始まり、ほかの3人の嫁は鉢かづきの美貌に負けてしまった。次に琴や歌で勝負したが、鉢かづきは小さいころから習っていたので、やはり、ものの数ではなかった。結局、鉢かづきは主人の国司の許しが出てめでたく末っ子と結婚。そして、子供も授かり、幸せに暮らしたのだが、ある日、鉢かづき姫が長谷観音に参詣した時、父親と再会したのである。やはり、これも信仰心の篤さによりご利益を得た話といえるかな」 |
禁多浪先生 |
「次は大江山の<酒呑童子>を、モン太君に話してもらおうか」 |
モン太 |
はい、酒呑童子というのはね、獅子のように白い髪をザンバラ頭にしているが、顔は子供のような顔をしているんだって…よく、能などで演じられるんだよ。昼は人間の顔をしているが、夜になると鬼に早変わりするんだって。そして、村でさらった娘たちの生き血を吸って生きているということさ。俗に、大江山の酒呑童子というが、その大江山というのは京都府(福知山から加佐郡まで続く山)にある。池田中納言国隆の娘がさらわれたというので、占いをする陰陽師(おんみょうじ)に見てもらうと『丹波の山にいる』と言われたんだよ」 |
ワン郎 |
「長いから、その続きは僕がやりましょう。帝は早く姫を救い出さないと…ということになり、そのころ、活躍していた強い武士の源頼光がその任務を負うことになった。それに彼の家来の四天王と呼ばれる綱、金時、貞光、季武も行くこととなった。彼らはそれぞれ信仰している神に参拝して、いよいよ、大江山に出発。言い忘れたが、酒呑童子はその名の通り酒が大好きで、大江山に着いた頼光たちにも勧めた。しかし、頼光たちも用意万端、特別な酒を鬼たちに差し出した。すると、酒呑童子をはじめ鬼たちはべろべろになって上機嫌。頼光はここぞと狙いを定めて酒呑童子の首をばっさり。四天王と共に他の鬼たちも一人残らずやっつけた。その後、さらわれた姫たちを探し出し、故郷へ連れ帰った。そこで村人たちは大喜び。つまり、頼光の武勇伝ともいえるわけさ」 |
禁多浪先生 |
「それではその次にコン助、お得意の狐族の姫様の『木幡(こわた)狐』というのをやってくれるかな」 |
コン助 |
「はいはい、かしこまりやして候。この話の場所は京都府宇治市の木幡というところの話さ。狐一族の中のきしゅ御前という姫様のお話じゃ。きしゅ御前というのは、それは愛らしくて、おまけに学問も芸事も達者で、つまり、才媛というわけさ。もちろん、プライドも高いきしゅ御前は『私、狐同志の結婚なんて嫌。私は人間の身分の高い人のお嫁さんになりたいわ』と常々思っていたらしい。それで、都に行ってみたいとあこがれていたのだが、両親はそんなところへいってはだめだと反対するばかり。きしゅ御前はそれでも反対を押し切り、木幡の里のほうへ行き、草むらに隠れて、通る人を眺めていた。そ、そのときだ。きしゅ御前の前を通りかかる美男子、彼は城内に住んでいるのに飽きて、外に出てきた貴族であった。二人の眼と眼が合ったその瞬間、大きな火花が散ったんだとさ。ここで言い忘れていたが、きしゅ御前は狐のままではなく、ドロンパッと美しい姫君に化けた姿でありまする。そして、若君のほうも、きしゅ御前に一目ぼれしたのだから…道に迷ったというきしゅ御前を早速、屋敷に連れ帰った若君は一晩泊めてやったそうだ。この続きは、うさ子、お前も知ってるんだったら、話してくれよ」 |
うさ子 |
「はいはい、コン助君、了解です。きしゅ御前も、この人こそ私の理想の方だわと思い、夜も寝られない恋の病にかかってしまったんだって。ついに彼からプロポーズされたきしゅ御前はめでたくゴールイン。やがて、一人の男の子が生まれ、幸せな毎日を過ごしていたのだが、三年目のある日、男の子に生きた犬のプレゼントが届いたんだって。『きゃあっ!た、た、助けてぇ!』よりにもよってきしゅ御前の一番嫌いな犬だったのです。『もう嫌、ここにはいられない』そう思うや否や、きしゅ御前は夫に『ちょっと故郷へ帰ります』と言って一目散に逃げ帰った。もちろん、きしゅ御前は元の狐の姿に戻って山道を走りに走り、故郷へと急いでいたのです。しかし、山へ戻ったもののきしゅ御前は日に日に悲しさがつのり、夫と子供のことを思い出しては、居ても立っても居られない気持ちになりました。とうとう仏にすがる道しかないと考え、きしゅ御前は寺にこもり、仏道の修行に明け暮れるようになりました。私が思うに、それでも彼女は自分の目的を果たして人間の男と結婚したのだから、いいときもあったんじゃないかしら。きしゅ御前ってかわいいうえに,きっと、やさしい心の持ち主に違いないわ。なんだか涙がこぼれてきたわ」 |
禁多浪先生 |
「今日はみんな、なかなかよかったよ。これからも今の調子で頑張ってくれたまえ」 |