新学期が始まり、数週間がたちました。みなさんの中には、まだまだ勉強のエンジンがかかっていない人も多いのではありませんか。
「そんなことはありません。学校の授業のノートもとっています。」
胸をはってこう言える人は、申し訳ありませんが、すぐに回れ右をしてください。ここから先は、あなたは読む必要はありません。しかし、「ノートなんて、テスト前になれば、友達のノートのコピーをもらえるから、自分でとる必要などありません。」そんなふうに思っている人は、ぜひご一読ください
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英語や古典を教えている家庭教師として、経験からわかっていることが、ひとつあります。生徒が学校の授業のノートをとっているかいないかは、テストの得点の目安になるということです。ノートがきちんとしている生徒は、そうでない生徒よりも点数が高くなります。また、同じ生徒でも、ノートを作っている単元と作っていない単元では得点率が違います。言い換えれば、理解度や正確度が変わるのです。
とはいえ、「学校から要点をまとめたプリントをもらっているからノートは必要ない。」とか、「英語は日本語訳のプリントが配られるから、訳は書かなくても大丈夫。」などと言う生徒は少なくありません。けれど、「訳のプリントがあるからテストで点がとれる。」ということにはなりません。おおよその雰囲気がわかっているだけでは、テストの問題は解けないからです。
「書くことは正確な人を作る。」これは、およそ五百年前に生まれたイギリスの哲学者、
フランシス・ベーコンが「学問について」というエッセイの中で述べた言葉です。全文を引用してみましょう。
Reading makes a full man, conference a ready man, and writing an exact man.
高校二年生なら訳せると思います。どんな意味になるか考えてみてください。(この文章の最後に訳をのせておきますから、参照してください。)
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ところで、ノートをとれば勉強の役に立つとわかっているのに、なかなかノートをうまく作れないと思っている人もいるかもしれません。新学期の最初の頃だけは、先生の板書を写していたのに、だんだん面倒になってやめてしまったという人もいるでしょう。ですから、ここでノートを作るにあたっての心がけをひとつアドバイスしたいと思います。それは、「素晴らしいノートを作ろうとはしないこと。」です。
最近、巷には「東大合格生のノートはどうして美しいのか」や、「東大合格ノート術」など、立派なノートを作るための方法が書かれた出版物が数多く出ています。
でも、成績をあげるためには、そんな立派なものを目指す必要はありません
英語なら、1)新出単語(意味を調べて書いておく)
2)英語の本文
3)日本語訳
という三つの要素だけでOKです。
古典なら、1)意味のわからない単語(意味を調べて書いておく)
2)古文の原文
3)現代語訳
これだけでいいのです。
できれば、学校で授業をうける前に、これだけのことを準備し終わっているのが理想的です。そうすれば、気持ちの上でも余裕をもって実際の授業にのぞめると思います。学校の先生の注釈なども、書き込みやすいでしょう。
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実際の例ですが、ある高校生の生徒は、わたしが教え始めたときに英語のノートを作っていませんでした。教科書の本文があまりに長いので、それを写すのだけでも面倒くさかったようです。
しかし、上記の三つの要素(新出単語、英語本文、日本語訳)だけのノートを作るように指導したところ、二ヵ月後の期末テストでは点数が二十五点もあがりました。
ところで、はじめてノートを作るにあたり、彼は本文をボールペンで書くという工夫をしました。(これは、お友達のやりかたを真似したようです。)しかし、それ以外のこと(色ペンを使ったり、アンダーラインを引いたりすること)は、嫌がってやろうとしませんでした。ですから、しばらくの間、彼のノートは黒一色の文字だけで埋まっていました。ところが、一ヶ月もすると、彼は色ペンで単語調べの欄に変化をつけはじめたのです。新出のものは赤色で書き、既出であっても忘れていたものは緑色で書くという具合です。さらに、数週間たつと、彼が「もう一色必要だな。」とつぶやきました。翌週、彼のノートには熟語的な表現が青色で記入されるようになっていました。このように「自分ルール」は、いくらでも増やすことができます。生徒本人の表現によれば、必要だと思ったときに、「ノートを進化させる」ことができるのです。ですから、最初は気負わず、とにかく続けることが大事です。新学期はぜひ、ノートを継続して作ってください。必ず、成績に変化が起こると思います。
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さて、先ほどのベーコンの文の訳はこうなります。
「読書は充実した人を作り、会話は即妙の人を作り、書くことは正確な人を作る。」
省略が多用された英文なので、ちょっと難しかったかもしれません。
それでは、最後にもうひとつ、ベーコンの言葉を贈ります。これを訳すことを今回の宿題にしたいと思います。中学生三年生より上の学年なら、挑戦してみてください。
If a man writes little he ought to have a great memory.
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