ing.先生:さて、今回は五七五、俳句。……と言っても、倒置法や切れ字、体言止めなどといった受験勉強は横においといて、ちょっと遊んでみよう。先週、宿題にしておいたクイズはできてる?
A:ばっちり!
i.:クイズというより連想ゲームみたいなものかな。江戸時代の俳句の一部を空欄にして、自由に言葉を補って完成させてみようというわけだから。
A:ママとパパにも協力してもらったよ。弟のKも飛び入り参加してる。
i.:K君は小学2年生だよね! これは楽しみだ。では、まず芭蕉からいってみよう。
鶯や餅に ( ) 縁の先
正月の残りの餅を縁側に干しておいたら、鶯(うぐいす)がきて何をしたか…。
A:これは自信あり。
鶯や餅にさえずる縁の先
A
鶯や餅に足つく縁の先
ママ
鶯や餅につまずく縁の先
パパ
鶯や餅にウンコする縁の先
K
i.:ははは。字余りだね。ママは「餅をつく」にからめているらしい。正解は
鶯や餅に糞する縁の先 松尾芭蕉
A:えーっ! それじゃKが正解じゃん。芭蕉って、もっと真面目なオジサンかと思ってた。
i.:別に不真面目というわけじゃないけど、教科書に乗っているような有名な句とはちょっと違って、軽い感じの句もたくさんあるんだよ。
では次の句。
( ) の声そろふなり雪の暮
A:冬だね。
餅つきの声そろふなり雪の暮 A
物売りの声そろふなり雪の暮 ママ
半鐘の声そろふなり雪の暮 パパ
i.:半鐘(はんしょう)は凄い!
江戸の冬は火事が多かった。薄暮の中の白い雪と、赤く染まる空の一角が目に見えるようだね! 正解は
狼の声そろふなり雪の暮 内藤丈草
A:怖い……。餅つきとか物売りとか、のどかじゃないんだ。
i.:では、のどかな春の句を二つ。
さほ姫のかく恋草や土の ( )
「佐保(さほ)姫」は秋の「竜田(たつた)姫」に対して、春の女神。
両方に ( ) があるなり猫の恋
A:両方とも恋だね!
さほ姫のかく恋草や土の上 A
さほ姫のかく恋草や土の筆 ママ
さほ姫のかく恋草や土の色 パパ
両方に声があるなり猫の恋 A
両方に艶(つや)があるなり猫の恋 ママ
両方に科(しな)があるなり猫の恋 パパ
両方にヒゲがあるなり猫の恋 K
i.:お見事! K君が正解♪
A:またあ? Kは恋なんかわかるわけないもん。ただのまぐれだよ。
i.:でも、意外に小さい子の観察眼て確かなのかもね。さほ姫のほうはママが正解♪ 「土筆」と書いて「つくし」と読むことに気がつけば易しい。
さほ姫のかく恋草や土の筆 山本西武(さいむ)
両方に髭があるなり猫の恋 小西来山
i.:次は夏に行こう。さわやかな初夏の風が感じられる句。
しら雲を吹き尽くしたる新 ( ) かな
A:これ難しかった。
しら雲を吹き尽くしたる新樹かな A
しら雲を吹き尽くしたる新茶かな ママ
しら雲を吹き尽くしたる新芽かな パパ
i.:おっ。Aちゃんが正解♪
A:えっ? なんとなく大きい木かなと思って入れたんだけど!
i.:新茶とか新芽とかの熟語にとらわれなかったのが、かえってよかったんだね。
しら雲を吹き尽くしたる新樹かな 椎本才麿
じゃ、これはどうかな。
( ) ( ) とて寝入りけり
夏の夜、( )を待っているうちにいつの間にか寝入ってしまった、の意。
A:同じ言葉が二つ入るんだよね。
蛍こい蛍こいとて寝入りけり A
子守唄子守唄とて寝入りけり ママ
涼風やすずかぜやとて寝入りけり パパ
i.:熱帯夜にあえぐパパがあわれだ! ママのは忙しい母親の子守唄を待ちくたびれて寝入ってしまった幼子。季語がないのが惜しい。蛍は夏。昔なら家の庭まで蛍がくることもあったのかもしれないね。正解は
ほととぎすほととぎすとて寝入りけり 岸本調和
ほととぎすは夏の代表的な鳥。夏がくると、人々はみんなでほととぎすの声を待ちわびた。だから、こんな句もあるよ。
一声や千万人のほととぎす 内藤露沾(ろせん)
次の季語は夕立。白雨と書いて「ゆうだち」と読むよ。
白雨の隈しる ( ) のいそぎかな
隈(くま)は物陰。( )
には生きものが入る。
A:小さい動物だね。
白雨の隈しる雀のいそぎかな A
白雨の隈しる蝶のいそぎかな ママ
白雨の隈しる狸のいそぎかな パパ
i.:もっともっと小さい。
白雨の隈しる蟻のいそぎかな 三井秋風
A:あ、なるほど! 小さい頃、庭のすみっこでよく蟻をずうっと見てたけど、その感じわかる。雨が降ってくると、ビックリしたように急ぎ足になって……。
i.:Aちゃんもあわててかけて行く。
A:俳句ってたった17音でも、いろいろ想像できて楽しいんだね。
i.:季節感があるしね。次の機会には、秋の句にも挑戦してみよう。
A:ぜひ! 今度はKなんかに負けない。
i.:期待してます。まあ、勝ち負けじゃないんだけどね。
A:パパなんか絶対「本物よりオレのほうが名句だ」なんて言いそうだし!
i.:あはは……!
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