弟99回では、『日記のすすめ』というテーマで、文章を書くということがいかに簡単で気負わずに楽しくできることかという話をしました。 今日は、文章を書くことに少しずつ慣れてきた皆さんのために、さらにレベルアップするコツの一つとして「言葉を選ぶ」というワザを紹介したいと思います。
1.言葉のバリエーションとは――「思う」ファミリー
まず次の表現を比較してみてください。
元の文
「私は、明日は雨が降りそうだと思った」
バリエーション
1 「私は、明日雨が降るかもしれないと考えた」
2 「私は、明日は雨が降るだろうと推測した」
3 「私は、明日は雨が降ると予想した」
4 「私は、明日は雨が降ると確信した」
5 「私は、明日雨が降りそうな気がした」
「考える」「推測する」「予想する」「確信する」「気がする」。これらはすべて、「思う」という意味を含んだ言葉で、「思う」の仲間と言っていいでしょう。しかし、それぞれの言葉が表している雰囲気、状況、心境はずいぶん異なります。
「思う」は、それ自体に特別な意味や色を含まず、最も中立的な言葉ですから、大抵の文脈ですんなりと使えます。
「考える」は「思う」に比べると、より理性的な判断を伴っているときに使うようです。
「推測する」も判断の意味を含んでいますが、それに加え、判断をするにあたって何か根拠(たとえば月に笠がかかっていたとか、空気が重く湿っていたとか)があったことを匂わせています。
「推測する」と似ていますが、もう少し柔らかいニュアンスの言葉に「予想する」があります。
「確信する」というと、理性の働きや根拠のあるなしというよりも、思いの強さ、硬さを表現することができます。
逆に「気がする」「感じる」というと、もっとかすかで不確かなニュアンスが出てきます。
他にも「思う」の仲間としては、「思いつく」「頭に浮かぶ」「感じる」「予感する」「頭をかすめる」「思慮する」「判断する」「熟慮する」「願う」「期待する」「決意する」など様々なものがあります。
2.最もふさわしい表現とは――「言う」ファミリー
次に、やはり最も基本的な言葉の一つ、「言う」をとりあげて考えてみましょう。上の例にならって、「言う」という意味を含む言葉を出来るだけたくさん挙げてみてください。
できましたか?
では一緒に見てみましょう。
「言う」「しゃべる」「話す」「語る」「話し合う」「語り合う」「つぶやく」「ささやく」「さけぶ」「どなる」「まくしたてる」「言い捨てる」「言い放つ」「言い返す」「伝える」「唱える」「口ずさむ」「訴える」「講じる」「演説する」「呼ぶ」「議論する」「説く」「諭す」「声をたてる」「口をはさむ」「口を出す」・・・・・・なんだか言葉オタクじみてきましたが、まだまだありそうですね。あなたはいくつ思いついたでしょうか。
これらの言葉がそれぞれどんな意味を持っているかは、大体わかると思います。しかし、読んで意味がわかることと、これらを自分の言葉として自由自在に使いこなせることは別です。たとえば、あなたはこれらの言葉のニュアンスの違いを、自分なりに説明できますか? それぞれ、どんな意味があり、どんなときに使っているのでしょうか。
「えー、難しいよ、なんとなくはわかるけど・・・」ですって?
そう。普段何気なく使っている言葉ですが、改めて考えてみると意外と奥が深いのです。
たしかに自分が何か文章を書くときに、こんなふうにたくさんの言葉を並べ立てていちいち考えなくても、「○○さんは××と言った」と書けば、それだけでも文章として成り立つでしょう。しかし、もっと上手に書きたいと思ったら、意識して言葉を選ぶことが大切です。書いている手をちょっと止めて、あるいは一通り書き終わった後に見直しをしながら、「もっと素敵な言い回しはないかな」と考えてみましょう。自分の心にある内容を表現するのに一番ふさわしく、しっくりくる言葉を見つけることができれば、読む人が誤解なくその内容を受け取れるだけでなく、書き手である自分自身の心も満たされ、安心感を得ることができるのです。
慎重に言葉を選んで表現することは、自分に似合う洋服を探すようなものです。似合う洋服を着ていると、人があなたを見たときに、あなたという人間のかもしだす雰囲気をよくつかめるだけでなく、あなた自身もなんとなく居心地のいい気持ちがするのではないでしょうか。文章を書くとは自己表現そのものです。的確でしっくりくる言葉を選ぶというのは、とても知的で創造的な作業なのですね。
3.言葉のストックを増やそう――まずは人真似から
自分が書く文章も語る言葉も、自分が知っていて使いこなせる言葉の数と種類が多いほど豊かになっていきます。もちろん文章の豊かさには語彙(ごい:その人の持っている言葉の総体)以外にも様々な要素があるのですが、語彙が増えることによって、それ以外の要素も自然とレベルアップしてくることが多いのです。人とのコミュニケーションを深めるためにも、多くの語彙を持ちたいものです。
ところで、世の中には言葉を自由自在に操り、言葉によって独自の世界を表現することを職業としている人たちがいます。そう、プロの作家と言われる人たちです。小説家、詩人、戯曲家、評論家、随筆家・・・様々なジャンルの著述業がありますが、皆言葉のプロです。自分が文章を書くようになると、プロの作家たちの作品を読んだとき、彼らがいかに言葉の選び方に工夫をこらしているかがよく見えてきます。
本を読んでいて、これはと思った表現があったら、どんどん真似して自分の日記や作文に取り入れてみましょう。幼い子供が周囲の人の会話を耳にし、真似することで言葉を覚えていくように、あるいは、年頃の娘がファッション雑誌のモデルのコーディネートを真似ることでおしゃれ上手になっていくように、文章もやはり先人たちの書いたものを読み、真似することで上達していくものなのです。たくさん読み、たくさん真似して書きながら、徐々に自分なりのスタイルを磨いていきましょう。
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