*今回も前回と同じく、金太郎先生、熊介君、コン太君、うさ子さんに御登場願います。 |
金太郎 |
「本日は平安時代の『竹取物語』について、忌憚(きたん)のないご意見をお聞かせください」 |
熊介 |
「はい、それじゃ…『竹取物語』は俗に“かぐや姫”の話として、みんなに知られているけれど、作者は未詳となっている。そやけど、ひょっとしたら僧正遍昭(そうじょうへんじょう)かとも言われているんやで」 |
コン太 |
「へえ、熊ちゃん、よう知ってるな。坊さんか。彼は満月の夜、想像をめぐらして、きれいな月の中から美女が地球に舞い降りてきたらええなあ…と考え、書いたんと違うやろか」 |
熊介 |
「まあ、物語はイマジネーションの世界やから、どう考えようと自由や。けど、明確には作者は分からへん」 |
コン太 |
「そういうたら、『竹取物語』 は、物語の出でき始めの祖(おや)と言われているな。祖というのは、先祖の意味があるので、おおもとの始まり、つまり、物語の出来た始めちゅうことになるわ」 |
熊介 |
「コンちゃんもよう知ってるな。物知り博士やな」 |
コン太 |
「うっほん! そやけど、ほんまにかぐや姫って美 しい人なんやろか」 |
熊介 |
「そら、5人の貴公子も夢中になったぐらいやさかい。 きっと才色兼備やったに違いないと思うわ」 |
うさ子 |
「お二人さん、いつの間にやら関西弁出てるよ。標準語でしゃべってよ」 |
コン太 |
「きょうは金太郎先生が言いたい放題でと言わはったんで、そうさしてもろてんのや」 |
金太郎 |
「OK、OK 、本音でしゃべってもらいたいので、なまりが出てもかまわない、続けて…」 |
コン太 |
「5人の貴公子は、かぐや姫から無理難題を課せられ、それが解決できた人と結婚するという話になっていたけど、誰もできず失敗に終わった…あやつはわざと不可能な問題を出して、最初からみんなを振るつもりやったんや。悪い女や、全く…5 人の貴公子、揃いも揃って振られたんや」 |
うさ子 |
「みんな平等に振られたのだからいいじゃない」 |
コン太 |
「うさ子はそういうけど、男の立場からすると、あんなしたたかな女にふりまわされて、すごいショックやったと思うわ。かぐや姫ってやつは、全く許せん」 |
うさ子 |
「コンちゃん、かぐや姫の悪口言うのもいいかげんにしてよ。私は魔力が使えるから、かぐや姫と交信して呼び出すわよ」 |
コン太 |
「あほ言え、うさぎに魔力が使えるもんか。冗談も休み休みに言え」 |
うさ子 |
「ふん、目にもの見せてやるわ。覚えてらっしゃい」 |
熊介 |
「もめないで…本題に戻ろう。5 人の貴公子の他に、帝もかぐや姫に目をつけていたのを知ってるか」 |
コン太 |
「狩りの途中に、帝がかぐや姫の家に立ち寄ったということになっているが、あの方は5人の貴公子が振られたあとも、 勝手にモーションをかけていたという話や。結果的にかぐや姫は、そんな帝さえも振ってしもうたんや。ほんまにプライドの高い女や」 |
うさ子 |
「だけど、かぐや姫だっていろいろ悩みは深かったかもね。月の世界の人といっても、コンちゃんも熊ちゃんも、もっと女の人の気持ちを解ってあげなきゃいけないわ。」 |
コン太 |
「そういうけどな、あやつはもう一つ気に入らんことを言うてるのや。人間世界は汚れたところで、月の世界は聖(きよ)らかなところやと言うてるんや。ほんまに失礼なことやないか、けしからん」 |
熊介 |
「あの頃は人間が月に行けるなど、考えもしなかったやろな。それが今じゃ月にロケットばんばん打ち上げてるし…」 |
金太郎 |
「みんな行きたい宇宙旅行も夢ではなくなってるし、今に月の世界で住むことさえも可能になってきそうや。あっ、なんか急にまぶしくなってきたな」 |
コン太 |
「ごうごうと音がするな。なんやろ」 |
うさ子 |
「○□*+△◆、○※*+△◆……」 |
コン太 |
「うさ子、目をつむって何してるんや」 |
うさ子 |
「えーい!」 |
<目の前にかぐや姫が姿を現わし、金太郎、コン太 びっくり仰天している。光の輪の中でかぐや姫がほほえんでいる> |
かぐや姫 |
「みなさん、こんにちは!」 |
一同 |
「ようこそ、かぐや姫!」 |
かぐや姫 |
「うさ子さんからの交信で参りました。私の悪口を言っている人がいるとか。わたしだって聞き捨てにはなりませぬ。みなさん、私の言い分も聞いてください」 |
金太郎 |
「かぐや姫、どうぞ、あなたの御意見もお聞かせください」 |
かぐや姫 |
「わたくしは、帝や5人の貴公子を決してみくびっているわけではありません。わたくしはもともと月の国の生まれなので、地球上では生きながらえていけなかったのです。満月の夜に、月の国から迎えが来て、どうしても帰らなければならなかったのです。できることなら、地球人に生まれたかった…」(涙を流している) |
うさ子 |
「コン太君、かぐや姫に謝りなさい。あなたはかぐや姫のことを勘違いして、悪口ばかり言ってたでしょ」 |
コン太 |
「謝りなんかするもんか。おいらは絶対に許せない」 |
熊介 |
「僕もちょっと一言ありますねん、かぐや姫」 |
かぐや姫 |
「はい、どうぞ」 |
熊介 |
「あなたは、竹細工の仕事をしていた“さぬきのみやつこまろ”の翁(おきな)と嫗(おうな)を見捨てて、月の国へ帰って行ってしもうたが、2人の悲しみはどれくらい深いか、はかりしれないと思うんや」 |
コン太 |
「翁が光る竹の中にいたあなたをみつけたそうな。その頃は三寸くらいの赤んぼやったのに、家に連れて帰ってもらい、手塩にかけて育ててもらったんやろ。それにも拘(かか)わらず、あなたは2人を裏切ったんやないか。ほんまに恩知らずな人や」 |
かぐや姫 |
「それはそれは大きな誤解で、私は翁や嫗の御恩は決して忘れてはいません。できるものなら何としても御恩返しがしたいと今でも思ってます」 |
うさ子 |
「かぐや姫様、あなたのそういう気持ちも分からず、コン太君はあなたの悪口ばかり言ってたのよ」 |
かぐや姫 |
「わたくしの気持ちを理解してくれない人には、思い知らせてやりましょう」 |
<かぐや姫、光のロープを投げつける。ぐるぐる巻きにされるコン太> |
コン太 |
「助けてくれ 〜!」(うさ子、ぎゃはぎゃは笑っている ) |
かぐや姫 |
「それではみなさん、御機嫌よう!」 |
<うさ子に何かを渡すかぐや姫。うさ子、受け取ってはねまわっている> |
うさ子 |
「不老長寿のお薬だわ。帝ももらったものよ。ちゃんと4人分あるわ」 |
一同 |
「かぐや姫様、ありがとうございます」 |
かぐや姫 |
「みなさん 、それを飲んでいつまでも若く、そして長生きして、みんなで月旅行においでくださいね その時は、わたくしゆっくり御案内いたしましょう」 |
<コン太、ロープがほどけず、もがいている> |
コン太 |
「早くほどいてくれ!もう懲り懲りだ。これからはかぐや姫の悪口言わないから… とほほ…」 |
うさ子 |
「ずっとそのままでいなさい。ぎゃはぎゃは…」 |
<轟音(ごうおん)と光の中、かぐや姫が天空に昇っていく> |
4人 |
「また来てね、かぐや姫さま…」 |