今回は、小説の“視点”を講義します。
小説をストーリーとみた場合、誰の<眼>を通して物語空間を語っていくかという手法が重要となります。それが“視点”です。
“視点”は、小説をはじめ、映画のような映像芸術を創造する場合に、作品そのものを構成していくうえでも、重要な役目となります。
今回は、小説において基本となる、“視点”を紹介します。
小説を読むときに、誰の眼を通じて風景を見、誰の肌で感じ、誰の心で思い、誰の心に映った心象風景なのかということを、意識して味わってみて下さい。
一人称視点
「私」「俺」「ぼく」など、小説にでてくる物語の主人公(あるいは登場人物)である「私」を通して、物語を語っていきます。
「私」が知っていること、感じること、思っていること、見ていることにもとづいて、小説空間を語ります。
三人称視点
ある中心人物の<眼>を通してストーリーを語ります。「一人称視点」よりも、客観的に視点人物を描くことができますが、あるシーンを描くためには必ずその場に居合わせなくてはなりません。
小説では、ヒーローやヒロインの視点で語っていく手法を選択することが多いです。
複数の視点
小説の章ごと、あるいは節ごとに、複数の人物がつぎつぎに語り手の役をつとめます。三、四人の視点をつかう時は、すべて一人称とかすべて三人称というように、扱いを同じにしたうえでストーリーの中での役割に応じて、どれか一人に、他より重きを置くようにします。
長編小説(複合ストーリー)、ことに長編ミステリーなどでよく使う手法です。
傍観者、
ナレーターの視点
わき役にストーリーを語らせていく手法です。
ワトスン役が語りをつとめるシャーロック=ホームズ物や、サマセット=モームの短篇がその例です。
物語では事件の部外者にとどまり、あくまで外側からの観察者です。読者は自分をこの人物に重ねて考えることができ、ミステリーなどでは、読者を混乱させ、ミスリードさせることで、強烈などんでん返しに持っていくことができます。
神の視点
すべてを見渡すことのできる視点とよばれ、作家はストーリーに登場するあらゆることを見通し、理解し、追求することが可能です。
たとえば、何千人もが戦う合戦などのシーンを描く場合に、効果を発揮します。(他の視点では、戦況のリアリティが読者には伝わりません。)
“視点”の選び方が、強烈にストーリーの味わいを左右します。小説の“視点”はまた、読者の視点にもなります。さらに小説の登場人物に、読者を感情移入させる効果もあります。
“視点”のもつ効果を意識して、小説を味わってみて下さい。
<参考文献>
「推理日記シリーズ」佐野洋(講談社文庫)
――視点の効果が、プロの作家より学べます。 |