◇ 和歌の独立宣言
「やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。」
〈和歌は、人の心を種子として(生い茂り)、さまざまな言葉となったものである。〉
これは『古今和歌集』の「仮名序」として有名な序文の冒頭文です。葉が種から生じるように、言葉は人の心から生まれるものなのだと、きっぱりと述べています。なんと言葉(和歌)への愛と信頼に満ちた宣言なのでしょう!
「種」→「言の葉」という縁語の用い方も機知に富んでいるのですが、発した数々の言葉(叫びや囁き)のイメージが、豊かに生い茂った葉のそれらと重なり、また広がり、「言葉のルーツは心にあり」という真実に改めて気付かせてくれる名文といえましょう。「やまとうた」は、からうた=中国の詩=漢詩に対する言い回しで、日本の歌=和歌、の意です。
強調表現「ぞ…ける(係り結び)」を用いて断定的に言い切っているところは、まるで「やまとうた」自身が、張り切って自己アピールしているようです。
例えばこんなふうに…
《わたしは、いつもあなたの心の中にいます。どうぞ芽吹かせて!! わたしは歌の言葉となって緑の風にそよぐでしょう、あなたと喜びや悲しみを分かち合うために!》
少々大袈裟に聞こえるかも知れませんが、この自己アピールを「和歌の独立宣言」と名付けてみました。
和歌の独立? 和歌がなぜ『古今集』で独立するの? そもそも独立ってどういうこと?
―そんな疑問も湧いてきますね 。
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