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> 第57回 国語『日常が非日常に変わるとき』
≫本文・問題・解説
≫問題の答え
≫宿 題
西日のなかで電話が鳴った。受話器の向こうから、耳をくすぐるように声がひびいてきた。
――もしもし、ああ、パパだよ。土曜日だから、きょうは早く帰れると思ったんだが、ちょっと友だちにあっちゃってね。おそくなりそうだから、ママにそういっておいてくれないか。たのむよ。
受話器をおいて、しばらくたってから気がついた。きゅうに足がすくんだ。切れた電話をふりかえった。西日のあたっている部分がしろっぽく光って見えた。受話器をとりあげて、耳にあてた。ブーンという、とがめるような発信音が耳につきささってきた。声がのこっているはずはなかった。
へやにもどった。障子をあけようとして、ちょっとためらった。だが、すぐに手をのばして、思いきりあけた。音におどろいて、新聞をよんでいた顔がふりむいた。見なれた顔だった。
「障子ぐらいしずかにあけられないのか!」
と、さっき(三十分まえ)帰ってきていたおとうさんが、どなった。
ほっとした。
?
すくんでいた足が、しゃんとなった
。
「どうしたんだ、そんなところにつっ立って。電話はだれからだったんだい?」
「まちがいだよ、番号まちがい」
「またか。相手の電話番号ぐらい、ちゃんとおぼえておけばいいんだ。こっちはいいかげんめいわくする」
「おとうさんにそっくりの声の人だったよ。ほんとにおとうさんだと思って、びっくりしちゃった」
「よく似た声の人はいくらでもいるさ」
「ほんとにそっくりだったよ。いきなり、友だちに会ってきょうはおそくなるから、ママにいっておいてくれっていって、電話を切っちゃったんだ」
「へえ。ずいぶんそそっかしい人だな」
「きっと、おとうさんとおんなじぐらいの年の人だよ。ぼくぐらいの子どもがいるんだね」
「ああ、そうかもしれない」
おとうさんはめんどくさそうにいって、新聞に目をうつした。
?
さっき、ちらっとうかんだ考え
が、まったくばかばかしくなった。同じ人間が二人いるわけはなかった。
電話がまた鳴った。台所でおかあさんがさけんだ。
「ちょっと手がはなせないのよう。だれか出てちょうだい!」
玄関に出た。すると電話は、ぱたっと鳴りやんだ。ひきかえそうとすると、またせわしく鳴りだした。
「なんだ、いいかげんにしろ!」
受話器をとった。女の子の悲鳴が、耳にとびこんできた。
――だれか来てちょうだい! すぐに!
いとこのミミ子だった。
――もしもし、もしもし。
――ああ、トシオちゃんね。すぐに、おじさんとおばさんといっしょに来てちょうだい。あたし、こわいわ。
すがりつくような泣き声だった。ミミ子の背後で、数人の男のいいあらそっている声が聞こえた。
――もしもし、どうしたの。なにかあったの?
――パパが、パパが……ふえちゃったのよう! 三人になっちゃったのよう!どれがどれだかわからない……まったくおんなじ……きみがわるいわ!
ミミ子は泣きだした。背後のほうでいいあらそっている男たちの声が、高くなった。物のこわれる音がした。そのあいだをぬって、ミミ子を呼ぶおばさんの声がとぎれとぎれに聞こえてきた。
――すぐ来て! 早くなんとかしてちょうだい!
電話が切れた。受話器をもどして手のあせをズボンでぬぐった。いいあらそっていた男たちの声が耳にのこっていた。数人のはずなのに、声は一種類しかなかった。
A
声には聞きおぼえがあった。
からだがふるえた。
そのとき、玄関の戸があいた。
「ただいま」
おとうさんがはいってきた――いつもと同じように、かばんをこわきにかかえて。
「やれやれ、土曜日だというのに、なんやかやと仕事がのこっちまって、やりきれん。家へ帰ると、ほっとするよ。おや、トシオ、どうした。顔が青いぞ」
?
口の中がかわき、ひたいにあせがにじみだした。
エレベーターにのったときのような、めまいに似た胸のわるさがこみあげてきた。
「どうした。熱でもあるんじゃないか? どれどれ」
手をのばしてひたいにさわってきた。すうっと、何もない空間に落ちこんでゆくような気がし、それきり何もわからなくなった。
気がつくと、へやの中にころがっていた。目のまえに、ゆかたのすそからでている二本の足があった。こきざみにたえまなくふるえている。おとうさんだった。
「きみは……だれだ!」
おとうさんは、前方をみつめて、ひきつったような声でいった。そこに、へやのしきいぎわに、もう一人のおとうさんが、いきなりよこっつらを張られたみたいなびっくりした顔つきで、たちすくんでいた。
(三田村信行「おとうさんがいっぱい」より)
【問題】
上の文章を読んで、次の設問に答えなさい。
問1
?
とあるが、なぜか。もっともよい理由をア〜エの中から選べ。
ア 電話でおとうさんの声を聞いたから。
イ いつまでもとがめるような発信音が耳につきささっていたから。
ウ 障子をあけるといつものおとうさんがいたから。
エ 気持ちをしっかりともたなければと思ったから。
問2
?
とあるが、どんな考えか、文章中のことば9字で答えよ。
問3
?
とあるが、なぜか。40字程度で答えよ。
【解説】
問1
家にいるはずのお父さんから電話がかかってきた。あり得ない事態に強いショックをうけたトシオは、その混乱のなかで、障子の向こうにいるお父さんの姿を見て、ほっとしたことから考えよう。
問2
?
の直後の文章がヒント。
問3
?
から非常に混乱した状態が読み取れる。その原因を考えて制限字数で書こう。
★気持ちを表す慣用句
喜び――頬がゆるむ 胸を躍らせる
怒り――目を三角にする 腹にすえかねる
悲しみ――胸がさける 胸がつぶれる
安心――胸をなでおろす 肩の荷がおりる
驚き――目をむく 息をのむ 腰がぬける