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ふくろう博士TOP > ふくろう博士のe講座 > 2005年度のe-講座 > 第48回 国語『博物館めぐりある記-教え子とみた桜に想いをよせて-』
ようやく東京の桜に開花宣言が出た翌日、私は教え子のNちゃんと上野の森へ出かけた。 目指すは東京国立博物館。いずれ始める歴史の勉強のプロローグとして、土器や埴(はにわ)や銅鐸(どうたく)、装飾品や刀剣・鎧甲(よろいかぶと)、古書・絵画に至るまで、とにかく実物をひと目見ておいて欲しかったからだ。教科書や資料集の写真では、そのサイズや質感はなかなか把握(はあく)し難(がた)いものだ。 新五年生のNちゃんは最近になって『マンガ日本の歴史』シリーズを読み始め、またテレビの大河ドラマ「義経」も毎週欠かさず観ているようだ。興味を持ち始めた歴史上の人物を、持ち前の想像力で、館内の展示品の傍(かたわ)らに配して楽しんでくれたらいいなと思った。 春休みになって初めてのよく晴れた週末とあって、上野は賑(にぎ)わっていた。動物園も長蛇の列、まだ花陰(はなかげ)ちらほらの桜の根方には、ブルーのシートが敷き詰められ、人々は気の早い花宴(かえん)の準備にいそしんでいる。ふいにNちゃんが走り出す。私もつられて走る。大きく枝を広げた桜の木の下で息を切らしながら、二人は開いたばかりの花の数を数える。「一つ、二つ、・・・六つ。・・・開花、ですね」とニュースで見た気象庁の職員を気取ると、Nちゃんも大人の口調で「そうですね」と応じて、クスッと笑う。
バージニア・リー・バートン作『せいめいのれきし』(石井桃子訳)より