リンカーン、チャーチル、エジソン、ベル、シュバイツァー、アインシュタイン、ヘレン・ケラー、孔子、菅原道真……等、古今東西を問わず、世界の偉人たちは1対1のマンツーマン指導を受けていました。
この中でも特に、ヘレン・ケラーとアニー・サリバン先生の話は有名ですが、サリバン先生との出会いがなかったら、ヘレンはもともともっていた能力や感性を活かすことが出来ずに、著述家や社会事業家として活躍することもなかったかもしれません。また、この伝記をもとに舞台化や映画化された邦題「奇跡の人」とは、三重苦の障がいを克服したヘレンを指すと思われがちです。しかし、原題は「the Miracle Worker」で、彼女に奇跡を起こしたサリバン先生が「奇跡の仕事人」として、家庭教師の功績が称えられているのです。
教育とは、「個別指導に始まり、個別指導に終わる」と言われていますが、それは学習面に限らず、サリバン先生のように情熱を込めて全人的に関わることだと、私は理解しています。
医者に喩えれば、「病気だけを治すのではなく、病人をその病気をもった人として捉え」、免疫カを高めたり、血液の循環をよくしたり、ストレスを軽減したり、さらには生活習慣を改善したりと全人的に関わるということになるでしょうか。
子どもたち一人ひとりの性格や能力、やる気は違います。そのため、1対1の個別指導では学習の目標や進度、指導内容も自ずと違ってきますし、学習以前に体や心に問題を抱えていたらその対応にも心を砕かなければなりません。
生徒の気持ちに寄り添い、時には泥水をかぶりながらも生徒の学力をアップさせ志望校への合格を果たすために日々たゆまぬ努力を続けている、それが“ふくろう博士”の「プロ家庭教師」なのです。
第1章でも述べたとおり、日本ではじめてプロ家庭教師派遣システムを創案し、家庭教師のプロ化に向けて力を注いできたのは父でした。学生がアルバイトでする家庭教師とプロ家庭教師との力の差は歴然としていますし、学歴や経験だけでプロ家庭教師を名乗れるわけではないのですが、今ではこの「プロ家庭教師」という言葉だけが安易に使われているような気がしてなりません。
この現状に対しては、私だけでなく父も納得のいかないところでした。
また、非常に残念に思うことは、家庭教師派遣業を名乗りながら内実は教材を売ることが目的の業者、契約だけしてあとは知らん振りの業者、宣伝広告と内実があまりに違う業者、格安と謳いながら結果的には種々の名目で高額の料金を請求してくる業者など、家庭教師派遣のトラブルが後を絶たないために、誠実に真面目に生徒指導に取り組んでいる「プロ家庭教師」までもが、その地位を貶められ、不安定な位置に身を置くことを余儀なくされていることです。
このような状況を憂慮した父は、「家庭教師派遣業自主規制委員会」を組織し、家庭教師派遣業の健全化にも努めてきましたが、いまだに成果は上がらず、むしろ状況は悪くなっているようにも感じられます。
私が学院長に就任した2000年当時のことを振り返ってみますと、父の初代ふくろう博士はマスコミへの露出度も高く、「日本家庭教師センター学院」は知らなくても、「ふくろう博士」は全国的に周知の存在でした。当学院のテレビコマーシャルも流していたのでその影響も大きかったのかもしれません。
月刊朝日「アエラ」にて博士の知名度調査結果で、一位利根川博士 (ノーベル賞受賞者)、二位北野大工学博士 (ビートたけしの兄)、三位ふくろう博士 (古川のぼる氏)との結果も出ていました。
しかし、今日においては、20代、30代の比較的若い世代の保護者の間では、「ふくろう博士」の名前を知らない方もかなりおられるようです。
それでも伝統と実績を評価して、あるいは過去のお客様からの紹介により依頼してくださるご家庭もあって、2010年にめでたく創業50年を迎えられたことはこの上もない喜びです。
今後は、二代目ふくろう博士の私が、新生「ふくろう博士」となって、再び、「ふくろう博士」が家庭教師の代名詞になるように、日々精進していこうと決意を新たにしています。
父と私の性格の違いは経営方針の違いにも如実に現れていました。
父の時代はご家庭の教育投資も盛んで、今ほどの少子社会でもなかったために、テレビコマーシャル他に多額の広告費をつぎこんでも生徒が集まり、採算は取れる状況でした。売上高も上昇し、1991年にはピークを迎え、1995年には東京・中野区に自社ビルを構えるまでになりました。
私が学院長になってからは、 教育産業が冬の時代に入ったこともあって、売上高の減少は余儀なくされましたが、手堅い経営を続けて現在に至っています。
父と私の経営理念が一致していたのは、授業料に関することです。
「授業料は高いけど、どんな無理難題の生徒でも指導できる本物のプロ家庭教師がいるのは、ふくろう博士の家庭教師センターだけ」という口コミによる評価に支えられて、今日のように百年に一度と言われる不況下でも、授業料は高く設定したままで値下げは行っていません。どんな時代にあっても質の高いものにお金がかかるのは当然だと思うからです。毎年学院の授業料を発表すると、他の業者は必ず、それよりも低価格を発表するので常に高授業料の存在になってしまうのです。当学院では、消費税の増税を除いて十数年間授業料の本体価格の改訂はしていません。
この先、時代がどのように変わろうとも、教育投資にはそれなりのお金が必要というのが、父の持論であったとともに、私の持論でもあるからです。
2009年のワールドベースボールクラシック(WBC)で、メジャーリーガーのイチロー選手が1本何千円もするユンケルを飲んでいることが話題になりましたが、ユンケルにはコンビニでも買える何百円のものから、薬局でしか買えない何千円もするものまで多々あります。それを選ぶのは消費者であり、300円程度のユンケルで効いたと思う人もあれば、イチロー選手のように高価なユンケルにその価値を認める人もいるでしょう。
私の学院は高価なユンケル、つまり質の高いプロ家庭教師を派遣することで高額の授業料をいただく会社です。この方針は今後も貫くつもりですし、それが創立50周年を迎えた家庭教師派遣業の老舗としてのプライドでもあるのです。
オリックス時代のイチロー選手と初代ふくろう博士
父と私の経営方針で大きく違うものが二つあります。
父の代には“ふくろう博士”が「学院の顔」でした。そのことは父も自覚していたことで、マスコミへの登場や売り込みはもちろんのこと、講演会やパーティ会場等々、人が大勢集まる場所には積極的に出かけて行き、ふくろう博士の存在をアピールしていました。眼鏡、衣服、靴など身につけるものにも気を配り、意識的に目立つ格好をしていたのも、自らを学院の広告塔と考えていたからに違いありません。
前へ前へと出ようとしていた父に対して、私はむしろ学院では後方で控えるようにしています。前面に出るのは私ではなく、プロ家庭教師だと思うからです。二代目ふくろう博士の学院ではなく、プロ家庭教師あっての学院だからです。
それは、学院のホームぺージを見ても明らかなことで、「ふくろう博士の一押し家庭教師」「プロ家庭教師研修会」「ふくろう博士のe講座」など、いずれもプロ家庭教師を前面に出した内容になっています。
ニつ目は学院にかかってくる電話には、私が一番先に出るようにしたことです。学院長である私がご家庭からの電話に真っ先に出るというのは、父の代では考えられないことでした。初めに電話に出るのは受付、次に出るのは教育相談員で、父が直接に電話に出ることはめったになく、あったとしてもそれは特別のケースに限られていました。
私が直接電話に出る理由は、「ご家庭からのファーストコンタクトには、私自身が誠意をもって対応したい」という考えから出たもので、そうすることによりご家庭からの要請にも素早く対応でき、スムーズに家庭教師を派遣することができると思ったからです。
ご家庭からの電話を受けた私は、生徒の学年や住んでいる場所、状況などをお聞きし、さらには保護者との会話のニュアンスから最も適切だと思われる教育相談員や教育アドバイザーに電話を振り分けます。電話を受けた相談員やアドバイザーはご家庭を訪問してじっくりと時間をかけて教育相談を行い、保護者や生徒の要望をしっかりと把握したうえで、最もふさわしいと思われるプロ家庭教師を登録家庭教師の中から選び出します。家庭教師選定に際しては、私が口を挟むこともあります。プロ家庭教師のことをよく知っているからに他なりません。そうした経緯を経て、家庭教師が決まると、相談員やアドバイザーは家庭教師を伴って再びご家庭に出向きます。
実際の指導が始まると、家庭教師は毎月一度、生徒の学習の進み具合ややる気、状況などを報告するモニターレポート「学習指導報告書」をご家庭に提出することになっています。それは保護者の記名、捺印を経て学院に返されるのですが、私はこのモニターレポート「学習指導報告書」には必ず全て目を通しています。
そのため、私は学院にプロ家庭教師を依頼されているご家庭の生徒については、すべて把握しています。生徒指導が順調に進んでいるか、成績は伸びているか、家庭教師と生徒、ご家庭の関係性はどうか、ご家庭が家庭教師の指導に満足しているか等々、あらゆる角度から検討を行い、クレームを事前に防ぐ手立てを講じています。
また、家庭教師達に対しても、生徒や保護者の態度や雰囲気に違和感を覚えたら、“ホウレンソウ”すなわち「報告・連絡・相談」を怠らないようにとアドバイスしています。
その甲斐もあってか、現在、学院に対するクレームは全く発生していません。今後も引き続きスピードと誠意のある対応で、クレームゼロを維持していきたいと思っています。
このことは、消費者トラブルが後を絶たない家庭教師派遣業界にあっては特筆すべきことと自負していますが、一方で、教育に関わる仕事を生業としている以上、当然のことだとも思っています。
さらに、「形だけの会議」をやめたことも違いに数えられるかもしれません。トップダウン方式で一方通行の会議に何時間も費やすより、その時間をご家庭や生徒のこと、家庭教師達のことを考える時間にしたいとの思いからでした。