中学生の時期を「子どもから大人への階段を昇り始めた頃=思春期の始まり以降」と定義して、その成長期としての特徴と国語学習の課題と方法について考察する。
動物がその生育過程において形態を変えることを変態という。
例えば不完全変態の昆虫は〈卵→若虫→成虫〉、また昆虫のなかでも完全変態である蝶や蜂などは〈卵→幼虫→蛹→成虫〉の順に形態を変えてオトナになる。
人(ヒト)はこのような変態はしないが、筆者は、蝶や蜂が幼虫から蛹を経て成虫となり、己が世界へと飛び立っていく姿を、思春期の成長過程に重ねてイメージしてみる。子どもから大人へ至る道のりを歩き始めた中学生は、喩えてみるなら〈蛹〉である。
この時期に訪れる第二次性徴は、体の質的な変化とともに、精神面における著しい変化と成長をもたらす。この変化と成長の訪れが、心の成長の新たな起点となる。
蛹は、試行錯誤を繰り返し、時の鍛錬を受けながら、オトナ(成人)への道のりを進んでいく。中学生はその途上にある。
1 人(ヒト)には思春期という変態期がある
・「自己存在の唯一性」と「自己承認欲求」
中学生は変化の真只中を生きている。幼児や児童と呼ばれた時代を経て、自分と繋がる世間が徐々にあるいは急速に広がっていく。人・モノ・コトとの関係性の増大によって、これまでに経験したことのない喜びや戸惑いが生じることもあるだろう。
他者との関係性の中で、世界でたった一人の自分(自己存在の唯一性)に目覚め、自分をわかって欲しい!認めて欲しい!と強く願う(自己承認欲求)ようになる。だから、この時期に見られる背伸びしがちで夢見がちな言動やファンタジー世界への憧れは、思春期の始まりのサインであり成長の証しとも言えるのだ。
2 中学生の国語学習の課題と方法
・課題は語彙力
自己存在の唯一性と自己承認欲求に目覚めた中学生にとって必要なものは何か?――それは自己を語り他者を理解するための言葉の獲得と、既得の言語能力を超えた「自分で考え表現するための、より高次な語彙力」である。
人は誰でも、自分の知っている言葉で考え、表現する。知らない言葉は使えない。自在に使える語彙(単語・言葉の集まり)を豊富に持っている人は語彙力が高い人だ。「豊富に」というのは、質も量も高いレベルで、ということである。
語彙力を高めることが、中学国語学習の重要課題である。
・方法は音読学習
語彙力を高める学習方法として「音読」は優等生である。継続すればする程その効用は多彩となり、それらの効用の多くが語彙力を高める要素となっているからだ。
筆者が自身の学習指導を通じて実感し発見した音読の効用は、以下の通りである。これらの中には学ぶ姿勢作りに役立つものも複数含まれている。
・音読学習の効用
@学習が能動的に始まる。
学びの「入力」(=見る) と「出力」(=発声)がほぼ同時に始まり、自ら発声することで学ぶ内容が自分事となる。
A聴く姿勢が身につく。
音読する自分の声に集中する瞬間が続く。聞く→聴くになる。
B言葉の基礎知識が身につく。
読めない漢字や知らない言葉(単語・表現)に出会う。出会った時に印をつけておいて、辞書で調べる、チェックノートに書き出すなど、ルールを作っておくとよい。
☆漢字・文法などの国語の基礎知識の習得(入力)は音読学習とセットで行うと大変効果的である。音読に慣れてくると読みながら思考するようになる。思考は知っている言葉を(内的言語として)使うから、知識が増えれば意欲も増す。
音読はそれ自体が表現活動であるから、同じ文章や作品を繰り返し音読することで、次のような効用も期待できる。
C読解力が向上する。
内容理解が深まる。
D想像力が豊かになる。
文中の人物の立場や視点に立ったり、情景を想い浮かべたりする。
E感受性が豊かになる。
心の状態を表す様々な表現を知る。
F視野が広がる。
様々な未知の事柄に出会い、言葉で知る世界が広がる。
G表現力が高まる。
もっと上手に音読したくなる。
洗練された表現や別の言葉での言い換えなどに出会い、読み方を工夫したくなる。自分が書いたり伝えたりするときの参考になる。
H論理的思考力が身につく。
論説文は自問自答式に疑問や問題あるいは仮説を解明・証明する構成となっていて、論理的思考のお手本である。
文学作品は作中人物の心情を描きながらストーリー展開することが多いが、人物の行動や心の動き、また一つ一つの事象について、何故?何故?と謎解きしながら読み進む面白さを内包している。
音読は、著者や作者の代わりに解明・証明の筋道や謎解きの材料を提供する側に立つ表現活動でもある。それゆえに音読は「思考力」を育むのに最適な方法と言えるだろう。練習すればする程、効果は大である。そして、音読は極まれば朗読になる。
I音読が楽しくなる。
習慣化すると、頭で考える喜び、心で感じる喜び、わかる!喜びが生まれる。
以上、音読の効用について述べた。
教科書、参考書、問題集…理解する必要があるものは何でも音読してみよう。(但し、学校の授業・試験・図書館など音読NGの時と場所を各自弁えてください) 作文を書く時も手紙(メール)を出す時も! 国語に限らず他の教科でもやってみよう。
普段音読で力をつけているからこそ、テストは黙読でもしっかり考えられるのである。
できるだけ洗練された文章や作品、古今の古典や名作にも手を出してみよう。特に古典作品を音読してほしい。
中学生には、教科書に載っている文章や作品からとにかく始めてみることと、今までにお気に入りの本や絵本に出会っていたら、それを音読して楽しむことをお勧めする。
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