新学習指導要領の下での学習が、2022年4月から高校1年生に対して始まった。今回の改定では学習内容等が大きく変わり、その結果現在の高校1年生が受験する2025年1月の共通テストも大きく変化することが予告されている。
今回は新学習指導要領に基づく変化のうち、特に高等学校過程に関係するものを概観する。
1.新学習指導要領
(1)学習指導要領とは
学習指導要領とは、各学校でカリキュラムを編成する際の基準であり、日本全国のどの地域でも一定の水準の教育を受けられるようにするためのものである。文部科学省が学校教育法等に基づいて、時代の要請を反映してほぼ10年ごとに改訂している。
(2)新しい学習指導要領
近年、情報化・グローバル化の加速度的進展やAI の飛躍的発達による技術革新により激しい変化が起きており、今後も社会の変化はさらに進むと考えられる。もしかすると、今の子供たちの半数ぐらいは大学卒業時には、現在には存在しない職業に就くことになるかもしれない。
このように社会の変化が激しく、未来の予測が困難な時代の中で、子供たちには、変化を前向きに受け止め、より良い社会の創り手になっていくことが期待される。社会の変化に対応し、生き抜くために必要な資質・能力を備えた子供たちを育むことが大切なのである。
そこで、2017年、新しい教育を求めて学習指導要領が改定された。
新しい指導要領では、
@実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
Aその知識・技能をどう使うかという、未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」
B学んだことを社会や人生に生かそうとする「学びに向かう力、人間性など」
社会に出てからも学校で学んだことを生かせるよう、これら3つの力をバランスよく育むことを目指す、としている。
そして、これらの力を育むために、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視して授業を改善することが要求されている。
(3)新学習指導要領の下で重視される学ぶ内容
多々あるので、いくつか特徴的なことを挙げると
・理数教育の充実を図る。
そのためにプログラミング教育が重視される。また、高等学校では必履修科目「情報T」が新設された。さらに、データ分析などの統計に関する学習内容が増加した。
・主権者教育を重視する。
選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、高等学校では必履修科目「公共」が新設された。
・消費者教育を重視する。
2022年度から成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳から一人で有効な契約ができるようになる一方、保護者の同意を得ずに締結した契約を取り消すことができる年齢が18歳未満までとなることから、自立した消費者を育むため、契約の重要性や消費者の権利と責任などについて学習する。
(4)新学習指導要領の下での科目の再編
多くの教科で科目の見直しが行われた。
・国語科
これまでの「国語総合」が、実社会に必要な国語の知識や技能を習得させることなどを目標とした「現代の国語」及び我が国の言語文化に対する理解を深めることなどを目標とした「言語文化」に再編された。この2科目は必履修科目である。
文部科学省が「現代の国語」で読む教材として認めるのは論理的、実用的な文章で、文学は除外されている。その「現代の国語」の教科書に第一学習社が5つの小説を載せたことは、かなり話題になった。
・地理歴史科
「世界史A」、「日本史A」、「地理A」の3科目がなくなり、「地理総合」「歴史総合」が新設され、いずれも必履修科目となった。
・公民科
「現代社会」がなくなり、「公共」が新設され必履修科目となった。
・情報科
「社会と情報」「情報の科学」が「情報T」「情報U」に再編された。「情報T」は必履修科目となった。
・数学科
「数学B」の『ベクトル』と「数学V」の『平面上の曲線と複素数平面』が、新設された「数学C」に移行した。物理科では力学分野でベクトルの考え方を用いるので、物理の学習と数学のベクトルの学習の順序が悩ましいところである。
また、「数学A」から『整数の性質』という単元がなくなり、内容の一部は、「数学T」と「数学A」に配分された。不定方程式の学習はなくなったが、そもそも整数の学習がなかった時代から出題されていたのであるから、入試問題において不定方程式の出題がなくなるとは思われない。
2.新しい共通テスト
(1)2021年、2022年の共通テスト
新学習指導要領を受けて、2021年、2022年に行われた共通テストでは、思考力、情報処理能力、分析力を問うということであろうか、各科目とも文章量がかなり多くなり、時間の制限がとてもきつくなった。時間内に最後の問題まで到達できなかった受験生も多いのではないだろうか。
ちなみに、2022年共通テストについての外部評価(2022.6.30)では、例えば「数学T」及び「数学T・A」に対して、「設問は時間に比して多い」と評価されている。
(2)2025年の共通テスト
新学習指導要領の下で学ぶ最初の生徒である2022年4月高1生が受験する2025年1月の共通テストはどう変わるのであろうか。
・科目数
まず、現行の6教科30科目から7教科21科目にスリム化される。ただし、現行の6教科に「情報」という1教科が新設される。
・情報
学習指導要領の変更に伴い共通テストに「情報」という教科が新設されたことを受け、国立大学協会は、文系理系を問わず原則としてこれまでの5教科7科目に「情報」を必修として加えた6教科8科目を課すとする方針をすでに打ち出している。2024年まではない教科「情報」を、既卒者も受験することが求められるため、注意が必要である。
・国語
試験時間が現行の80分より10分長い90分となる。「多様な文章を提示する観点から」と理由が挙げられているから、現代文の出題が3題となりそのうちの1題が実用文となるかもしれない。または、1題の中で複数のテクストを扱いその比較関連を問うような出題となる可能性もある。
・地理歴史・公民
2教科6科目に再編され、最大2科目が選択できる。ただし、選択不可の組み合わせもあるので注意しなければならない。
・理科及び英語
大きな変更はないと思われるが、読む量が多くなる可能性は十分にある。
・数学
数学@は「数学T、数学A」「数学T」のいずれかを選択。
数学Aは「数学U、数学B、数学C」となり、「数学U」を選択することはできなくなった。
数学@は2021年より70分になっていたが、2025年より数学Aも70分となる。数学Aが70分となるのは「選択解答する項目数が2から3へ増加するため」とされている。具体的には「数学B」の『数列』『統計的な推測』、「数学C」の『ベクトル』『平面の曲線と複素数平面』の4項目から、3項目を選択することになっている。受験生(特に文系受験生)にとって数学Aの負担がかなり大きくなることが予想される。
3.終わりに
このように大きな変化がある共通テストであるが、2022年度秋冬頃には、大学入試センターから、新学習指導要領を踏まえた各教科・科目の問題作成の方向性(地理歴史、公民、数学、情報の試作問題を含む)について、公表される予定になっているので注視したい。
また、各大学が、まず、共通テストをどのように取り扱うのか、さらに、新指導要領の下で科目が再編されたので個別学力試験をどのようにするのか、などが大変気になるところである。文部科学省が各大学に対し、2025年入試に関する予告をなるべく早く公表するよう要請しているので、今年度2022年度中には、各大学がその方向性を公表すると思われる。注目していきたい。
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