全世界が初めての事態に直面し、我慢やストレスに長期間晒(さら)されることとなった。当初、指導を休止するも続行するも、個々のご家庭の判断に委ねようという心積もりだった。
折しも、都の「家庭教師は3密にはあたらず、自粛対象外」との判断が出され、幸い私の周囲は皆健康で、学校が休みに入りお困りでもあったことから、いつも以上に「来てほしい」との要請がかかった。
それによって、コロナがあったから可能だったとも言える、様々な指導上の取り組みが生まれた。遅きに失した感の受験スタートだったのが、一気に遅れを取り戻せたり、余裕をもって先取りできている場合には、生徒やご家庭の要望もあり、受験一辺倒ではない、創造的な時間を共有できたり、など。
家にこもって、友達とも会えない辛さに耐え、勉強しているのだから、せめてその勉強自体が、先生が来るのを待ちわびてくれるほどに楽しく実りあるものであってほしいと、一頻り(ひとしきり)工夫を凝らした。
それぞれの生徒がそれぞれに成長を遂げたが、とりわけCちゃんとの授業実践を通じては、今回のコロナ騒動のさなかにも、際立って刺激的な産物を多数創作できた。この場を借りて、その一端をご紹介したい。
ひらめきと謎解きワーク
指導開始直後は、受験が第一義の目的ではなかった。むしろ詰め込み主義でなく、先生との遊びや語らいを通して、発見する楽しさ、自ら考え、学ぶ喜びをもたせてほしい、というご要望だった。学齢もまだ幼く、集中力にも当初ムラが強かったことから、進学教材の勉強の他に、直観力や推理力で脳を鍛える、パズル的なワークを積極的に採り入れた。
これがCちゃんには効果てきめんで、元々インスピレーションにはずば抜けたものがあるので、ゲーム感覚でどんどん進み、やる気に拍車がかかっていく。
報酬系が脳にいい作用を及ぼすのを利用して、級が上がる毎に、賞状やメモに励ましの一言を添えると、勉強の教材もそれを目当てにうんと頑張るという好循環になっていった。
メモリーツリー 字をきれいに
最初は書くことを面倒がり、字も乱雑だった。意識が入ればきちんと書ける子なので、常に作品とか本番、という気持ちをもたすにはどうしたらよいか、いろいろやってみた。
Zen Brushという書のアプリを使っての、お母さまへの色紙メッセージ。百人一首の中の好きな和歌をくずし字で書きたいという希望にこたえて、美しい短冊づくり。
社会も初めはざっと飛ばし読みで片づけていたのが、大事な言葉をピックアップして、イラストを入れながら、メモリーツリーのように仕上げていくノート作りが、自分でできるようになった。一人で読んでまとめ、ビジュアル化していく過程でかなり頭に入り、直後にチェック問題をやると、ほぼ全問正答できるまでになった。
創作絵本
指導開始直後の夏休み、まとまった指導時間を活用して、毎回勉強後の半分の時間を充て、創作絵本作りに取り組んだ。子どものアイデアや湧き出る言葉をそのまま生かしながら、ストーリーを考え、下書き、絵を描き、清書と、一気に完成。
家族のトピックに想を得た筋立てだったので、ご家庭にとってメモリアルな作品になったことと思う。
新聞投稿
コロナ騒動の矢先、Cちゃんが自分から、身近な問題のことで意見があるので、新聞に投稿したいと言い出した。その前から読者の声欄をお母さまが読み聞かせていて、自分もやってみたいと思ったらしい。意欲もさることながら、社会問題への切り口もなかなか鋭く、掲載となって、学校でも発表の機会をもたせていただいたという。
これが刺激になって、小学生でも新聞で意見を言えるんだと、一人でも多くの子が思ってくれたら、素晴らしいことだと思う。
俳句作り
受験教材の進みが大幅に先取りできているので、時々ゆとり時間に、子どもの気持ちをアップさせる創作的な試みを入れている。目下楽しみにしているのは、俳句作り。
季節の風物を詠み込みながら、子どもの感性が生き生き伝わるようにと、手直しはせずに、絵を思い切り自由に書いてもらっている。
梅雨の句から夏の句へ。いっぱいできたら、季節ごとに本にして綴じられるスタイルにし、シリーズ化をめざす考えでいるようだ。
母の日公演 オペラ
Cちゃんが、母の日に姉妹で劇をやって、ママにプレゼントしたいと言い出した。
オペラがいいので、先生に脚本を書いてほしいと言われ、サプライズのため内緒でお稽古。
Cちゃんは意欲満々でハッスルしていたが、当初妹たちは主役になれず低調気味。だが、そこは女の子。きれいなスカーフや可愛いお帽子で、やる気がマックスに。
セリフや演出にも細かい口は出さず、Cちゃんが「お菓子あげるから! ふざけると蹴飛ばすよ!」 などと仕切っていたので、私は衣装係に徹することに(笑)
本番当日は、元気な声で歌い踊って、大成功!それぞれの良さが光り、感動的だった。
おこもりで鬱々とした状況の中でも、家庭内で楽しい時間を過ごすことはできる。
受験という大きな壁に立ち向かいながらも、勉強やそれに付随するワークショップを通じて、創造性や人間力を豊かに育むことはできる。
私の長い教師人生の中でも、稀に見る出会いと才能をもって、そのことを教えてくれたCちゃんとそのご家族に、心から感謝したい。
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