家庭教師を依頼する層は、通常小、中、高の受験生が中心である。受験は一回限りの人生で、将来を決する大一番であり、当事者である生徒、保護者の思いも並々ならぬものがある。
そうしたご期待に常々応えるのが、我々プロ家庭教師の使命であるのは至極当然のことだが、一方で長い経験の中では、実に様々な要望・お問い合わせに接することもある。
一般的な受験や進学以外に、特殊な事情、特殊な指導依頼があった場合、それに対応できる先生を探せるかどうかは、家庭教師センターとしてどういった人材を抱え、また各自にどう研鑽を働きかけているかという、組織力と器がものを言う。
バブル崩壊後、社会全体の経済力の弱体化、少子化による生徒数の激減、それに伴う塾業界の熾烈な争奪戦など、厳しい状況が続いている。
その中で生き残っていくためには、各々が新たな視点で家庭教師像を捉え直し、指導の幅を広げて一段とレベルアップを図っていく必要がある。
これまで主たる指導対象として考慮されにくかった世代および指導科目も、潜在的な需要が増えていくなら、今後は視野に入れていくべき時だろう。
なぜ大学生やシニア層なのか
近年グローバル化やパソコン=インターネットの普及などにより大学の授業内容が以前より専門、細分化され格段に難しくなってきている。大学側としても社会の需要、就職戦線への対応、他大学との差別化を図る意味で、授業の質の向上を図らざるをえない。
またグローバル化の波を受けて、英語教育に最重点を置く大学が急増している。
TOEIC、TOEFL試験などを義務化し,その点数や成績で進級・卒業を判断する大学もあり、法律(特に刑法、民法)や経済(特に簿記)などの学科も厳しい姿勢で臨んでいるようだ。
その結果、これらの授業についていけない学生が多数現れ、大学に入ってからも家庭教師が必要というケースが珍しくなくなった。
進級・卒業などの差し迫った要望以外でも、留学や法科大学院などのステップアップ受験、就活のための資格取得なども実際に依頼されたケースである。
一方、今のシニア層は気力体力に溢れ、生涯現役志向で、学びへの希求は実に強いものがある。とりわけ団塊の世代は人数も突出しているが、「学問」の域を超え、語学、美術、音楽、詩歌、陶芸、舞踊、スポーツなどにも深い関心を持ち、鑑賞のみならず実践で楽しんでいる人も多い。趣味で続けていくうちに欲が出て、自己投資のためにより専門的な先生の教えを請いたいという人も中には出てくるだろう。
大人の学びには、自分が限界を決めない限り「終わり」はない。一生続けられるからこそ生きがいとなり、年季を積めば上達もして、もっと知りたい、さらに深めたいと思うようになる。
たまたま自分の極めていた分野が、求められた指導ジャンルに合致し、幸せなカップリングが果たせた場合は、生徒さんの指針となれるよう、常に上を目指して研鑽することが大切だ。
どう指導するか
これまでは家庭教師は英語や国語、数学(算数)など学習主要教科が指導の中心で、それさえ教えられれば受験指導では概ね事足りていた。
だが、昨今のニーズの変化・多様化に合わせ、専門教科プラスαの技能を発揮できるようになれれば、この先生ならこんなこともやってもらえる、とさらなる信頼につなげることもできるだろう。
指導対象となりうるのは枚挙に暇がないが、一例を挙げよう。
英語の指導:
圧倒的にTOEIC対策が多い。大手企業の中にはTOEIC試験結果を入社、昇進等の条件にしているところもあり、必要度は高い。
この試験は大学入試とは異なりビジネス系英語が中心であり、リスニング、リーディング試験対策が指導の根幹になる。試験内容、出題方法に慣れないと、中高の英語教師でも半分も取れないこともままある。
先ずは実際に問題にチャレンジし、自らのTOEIC「力」を上げ、基礎力のおろそかな生徒にも500〜700点超を目指させてほしい。この過程で自分なりの指導法もできてこよう。TOEIC以外にも、TOEFL、英検準1級対策も準備を始めたい。
また今日の貿易、金融のグローバル化を見れば第2外国語として中国語、スペイン語、フランス語指導の需要も増えると思われる。まずはラジオ講座などを利用して、第2外国語習得に第一歩を踏み出させることを後押ししたい。
簿記の指導:
企業サイドからの需要も多く、入社試験にも大いに有利に働くので、大学で専攻する学生も多い。日商簿記2、3級が目標到達レベルである。
しかし簿記は実際に会社等で経理を経験していないと、中々理解が難しい学問である。例えば用語1つとっても「支払、受取、振替手形」とは、「建物減価償却引当金」とは、など「専門用語」の連続であり、かつ理論の正確な理解、計算が求められる。
ただし簿記は、経済学や経営学を専攻した人間には取り組みやすい分野であり、本学院でも、社会人の方の依頼に応え、簿記の専門技能を持つ家庭教師を派遣して、成功した実例が過去に数件あった。普段は普通に勉強を教えていても、特殊な技能や資格を持つ家庭教師は意外に多く、本学院の懐の深さに照らせば、ほとんどの要望には応じられるように思う。
法学の指導:
公務員系の就職には必須の科目であるが、この分野も大学生、特に新入生にとっては難関科目だろう。テキストがすべて専門用語、例えば刑法では「構成要件」「違法性阻却事由」「法廷的符合説」、民法では「物権変動」「瑕疵担保」など専門用語のオンパレードであり、懇切丁寧な指導なくしては完全な理解は難しい。
公務員試験を目指してWスクール、つまり大学の授業のほかに、専門学校に通う法経学部の学生も多いと聞く。法学部出身の先生は、法学検定2、3級を目標に再度法律を学び直して「わかり易い指導」ができるような心づもりをしておくといいだろう。
小論文の指導:
大学ではレポートの提出が頻繁に求められる。ところがこれを苦手とする大学生は多い。特に入学したての頃は、これまで論文を書いた経験がないので、戸惑う新入生も多い。
論文のテーマも、少子高齢化、労働、女性問題、グローバリゼーション、マイノリティや比較文化など多岐にわたる。普段本を読まない大学生の手に負えないテーマも多い。
先生方には不断にこうしたテーマに関心を持ち、研究し、生徒の引き出しを広げて文章力を向上さすような取り組みが求められる。
人間の価値は窮地(ピンチ)に追い込まれたとき、どう対処し乗り切るかで判断される。また大きな進展(チャンス)はその窮地の中に内包されている。
自分自身に余裕があり、生徒からも望まれてそれが可能な状況なら、臆せず、自信をもって未知の分野にも挑戦してみることだ。仕事において双方に有益なだけでなく、己の人生にも、「よく学び、よく教えること」は生きがいとなって還ってくるはずだ。
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