お隣韓国では英語教育が盛んだ。1997年に小学校での英語を必修化した。この年はアジアの通貨危機の年だ。韓国は国際的評価を下げ、先行きの不安感が蔓延する中、英語を使って国際社会に出るしかないと、国民挙げて英語を武器に韓国を立て直そうとした。
その後の韓国の英語熱は、公教育ばかりでなく、塾・家庭教師・留学へとブームが移る。子供の教育に熱心な家庭では、母親と子供がアメリカなどに留学をし、父親一人国内で仕事をする「雁父(キロギ・アッパ)」などの社会現象を起こしている。国を賭けての熱意だから、韓国人の英語に対する思いは計り知れない。
それでは韓国がどのように英語の力を伸ばしてきたのか。ありきたりの尺度ではあるがTOEICの平均スコアで見てみると、2001年では平均560点、2010年では韓国平均634点、2013年では632点と上昇。
対して、日本の平均は、2001年は560点台だったのが、2010年は512点と、下降を示している。(ちなみに、2016年4月のTOEIC平均は596.2点と上昇。時期的に受験直後や就職したばかりで、高い学力を維持したままの受験生が多くいたと思われる。)
2013年の韓国の席次は世界30位、日本は40位。ついでながら、この年の1位はバングラディッシュ、2位はインド、3位カナダとなっている。
2014年のデータでは、韓国は646点で23位、日本は512点で35位と、ほぼ同点ながら順位を上げている。バングラディッシュは消えて、1位はカナダの825点、2位はドイツが順位を上げて787点。3位インド健闘で769点。なんだか競馬の下馬評のようだが、TOEICの面白さはランキング比較にあるのかもしれない。
さて、こういった英語熱を支えてきた韓国だが、昨年、国の政策に影が差した。2013年6月に、朴槿恵大統領が、国民英語能力試験(NEAT)の中止を決定した。これは韓国独自の4技能検定試験として期待されたが、100億円近い無駄遣いで終わる結果となった。決して韓国の公教育が順風満帆ではないことを物語る。
話変わって、「韓国英語村」をご存知か。現在韓国には60を超えるこのような施設があるとのことだが、これは、国内で留学体験をする施設、すなわち語学キャンプ村だ。施設内はまるでテーマパークのような作りで、その中ではイングリッシュオンリーな生活圏が作り出されている。主に企業によって運営され、そこに県単位の補助が加わり、安価に語学研修できるようになっている。例えばパジュキャンプでは、一泊10000円で利用でき、韓国人であれば3/4が補助されて2500円で利用可能だ。
実は担当していた私立高校の生徒が、こちらのキャンプに参加したことから見知ったわけだが、日本の旅行会社が日本人向けに企画すると、4泊5日で15万円強。かなりぼったくられる。
ともあれ、このように、韓国英語村は、国民教育を超えて、今では観光スポットとして外貨獲得源にもなっているわけで、商魂たくましい韓国ならではだ。
このような語学研修構想は、語学学校では古くから企画されていた。私が学部生であった1982年当時でも、夏の休暇を利用して学生が教授の指導のもと自主企画し、白馬などの学生生協施設で泊まり込み語学特訓をした。日本語を使ったら罰金と言ってお金を集め、それで夜にはアルコールの入った宴会を、これまた外国語で楽しんだ。アルコールが入ると度胸がつき、かなり大胆なとんでもない言葉で会話していたと思う。
日本も韓国に負けず、ぽつぽつと英語キャンプの構想が進んできている。現在、英語村の形をとれている宿泊施設は、福島県白河にある「ブリティッシュ・ヒルズ」、最近英語名が変わった近畿大学のe-cube、長崎ハウステンボスのイングリッシュスクェアだ。
ハウステンボスはHIS社長の澤田秀雄氏の指導のもと進められている企画で、この夏には日本初の英語公用語ホテル「ウォーターマークホテル長崎・ハウステンボス」を誕生させる。つい先日も、オールロボットのホテルを作り話題となった。日本の国際化に意欲的な方と思う。
また東京都は、平成30年10月をめどに、江東区に英語村を作ることを決めた。言うまでもなく、平成32年の東京オリンピックを狙っての人材育成が目的と思われるが、いかんせん遅い。公教育は歩みが遅いので、何事も後手後手だ。
これに対して、群馬県前橋市は、廃校になった小学校の活用を民間企業に募り、中央カレッジグループによって、今年10月にEnglish Village Maebashiの開校が決まっている。
先ほどの、韓国の英語教育は、骨組みを公教育が作って骨折し、私企業が肉の部分を補充している形で成功してきたといえる。TOEICスコア比較はさておいても、国民全員が英語を日常的に使えるようにするには、今の日本の学校制度のみでは難しいと思う。
語学は、学校内の学習だけで間に合うものではなく、生活の一部として使用されなければ身につかない。使った時間の長さで習熟度がのびる体育会系な学問である。
英語を使う日常をいかに増やすか。ここに日本の国際化のキーがあると思う。
話変わって、10年ぶりに改定となる学習指導要領だが、英語に関しては、知識偏重から表現力を主体としたアクティブラーニングが目指されるとか。積極的に話しかけるなどの態度も学力とし、評価の対象とするそうだ。
先輩の韓国の現状、学校教育では、理解している生徒が3割、理解できない生徒が3割、その中間が3割とのことで、全体の1/3は切り捨てているのが現状だ。新学習指導要領になっても、3割の英語難民が予想される。この3割を、どう救うか、というよりも、学校の成績とは関係なく、どう英語になじませるか。そこには、結果を待つまでもなく、個別教育の必要性、そして指導する者の英語能力が問われることになるだろう。
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