本学院へのご家庭からの家庭教師依頼において、お子様が不登校に陥っていたり、なんらかの学習障害を持っていたりすることが最近多くなってきています。
本学院の教育相談員である私が担当させていただいているご家庭の中にも、不登校もしくは不登校ぎみの生徒さん、あるいは軽度の学習障害との診断を受けている生徒さんがいらっしゃいます。
今回の研修会では、不登校の生徒さんの指導実例を学び、こういった困難な状況に陥ってしまった生徒さんに対して、我々家庭教師はどのようなスタンスで臨めばよいのか、そのヒントを得る機会としたいと思います。
研修会では、いくつかの実例が取り上げられました。本稿はそれら実例のうちK先生が実際に指導なさったS君のケースを取り上げます。以下はK先生の発言の要約です。
不登校の公立中1年男子S君のケース
公立中1年次からご指導を開始し、高校2年次途中にお祖母様退職に伴い契約終了。
<指導開始時の状況>
区立中学1年の1学期から不登校に。お孫さんを心配されたお祖母様の依頼で指導が始まったが、お父様とお母様は家庭教師の必要はないとの意向。家庭教師費用はお祖母様がご負担。
不登校の原因は、中学校の担任の先生によれば、クラスの3人の男子生徒による「いじめ」と「学習意欲の障害」と「家庭環境」によるとの判断であり、お祖母様も同様にお考え。
指導開始時から、表情も明るく普通に会話もできてコミュニケーション力があり、また、「ひきこもり」の傾向も少ない様子だったので、心の状態には大きな問題はないと判断。
お祖母様にはよくなついており、いつもお祖母様の家の方にいて、そこが適切な「居場所」になっていることが、S君の大きな救い。
月に1回は、区が運営する「教育センター」に嫌がらず自主的に通う。
<指導経過>
不登校の第一の原因は「いじめ」よりも「重度の学習意欲障害」にあるとの学校担任の判断。学校での「いじめ」などにはあまり触れないようにして、K君が好きなアニメ・ゲームなどの興味のある話題でコミュニケーションを図りながら、中学校の教科指導にあたる。
積極的・自主的な学習への意欲はないが、担任が指摘するほどの重篤な学習意欲障害はみられず、それなりに学習には取り組む。
学校に行くことは強制せず、生活を夜型にしないようにして、昼間に適度に外出して社会と接することを勧めながら、中学のカリキュラムに合わせて、中学主要5教科の学習指導を進める。全教科について、基礎の理解力は十分にある。
中学3年になっても、不登校は続いていたが、区立中学は3年間不登校でも卒業認定は出る。高校は単位制の私立サポート高校に進学。
高校に入学してからは、無遅刻・無欠席で学校に通うようになり、友達もでき、定期試験も受けて合格点をとったり、冬休みには郵便局で自発的にアルバイトをするなど、不登校状態からは完全に脱け出す。
どちらかというと理科系の科目が好きだったので、高校のときは、学校の授業内容に合わせて、理科系科目と英語を中心に全教科指導。学習内容は理解。
現在は、高校も無事に卒業して、志望の電気電子系の専門学校にまじめに通っているとのこと。
<不登校傾向にある生徒を指導するときの留意点>
生徒の学校での現状を把握するためにも、できれば学校の担任の先生の意見をうかがっておく方がよい。また、保護者から、家庭での様子をよく聞くことも当然必要。
不登校の原因としては、「いじめ」「学習意欲障害」「家庭環境の問題」「適応障害」「行動障害」「人格障害」など、いろいろ考えられるが、時には、「統合失調症」や「感情障害(うつ病)」などの重篤な心の病が原因となる場合もあるので、生徒の心の状態をよく理解することが大切。
不登校傾向のある生徒とは、よく話を聞くようにし、まずよいコミュニケーション関係を築くことに専念、その流れの中で学習へと持っていくことが大切。
中学でいったん不登校になった場合、再び学校に通うようになることは、まずない。3年間不登校でも、公立中学では卒業資格が出るし、私立中学でも学校に頼めば卒業させてくれる可能性も高いので、焦らずに登校を強制せず、単位制高校などへの進学をきっかけにして、学校生活・社会生活への復帰をめざすのがよい。
まとめとしては、不登校傾向の生徒に限らず、いろいろな問題を抱えた生徒に接するときには、「人間には自ら主体的によくなろうという心がある」という「人間性心理学」に基づいた「受容と共感」という理念で、根気よく接していくことが大切。
K先生が根気強くS君を見守り寄り添って指導を続けることにより、S君の学校への復帰、社会への復帰を果たすことができた実例から、我々は多くのことを学ぶことができるのではないかと思います。今回の研修会で学んだことを、実際の生徒指導の中で生かせる機会があれば、参考にしたいものです。
また、今回のような不登校の生徒さんの指導に限らず、指導する生徒さんの状況を常に把握し、生徒さんに寄り添い見守りつつ導いていくのが我々家庭教師の使命であると、改めて肝に銘じたいと思います。
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