一 今年度の入試動向雑感
近年、湘南新宿ラインの増発など、首都圏の交通体系の変化と利便性の向上を受け、広域の通学を前提として、志望校を決めている保護者や受験生が増えていた。 しかし、昨年の大震災の帰宅困難を体験した保護者が、自宅から通いやすくて、迎えに行きやすい中学校を選択する動きが出て来た。
このような傾向から、神奈川県西部、埼玉県北部、千葉県の千葉以東から都心の中学校への志願者が減少傾向にある。中学校側も、手続きの傾向が読めず、合格者の出し方を工夫しているところも見受けられた。
二 時事問題としての複合災害の傾向と特異点
1 理科
本年度の大学医学部入試の物理において、慶應義塾大学他一校で放射線についての出題があったとの情報を確認しているが、中学入試においては、大学入試以上に大震災関係の出題があった。やはり、世の中に関心を持って、中学高校時代の六年を過ごして欲しいという学校側の問題意識が強く出ていると考えられる。
ア プレート境界型地震の仕組みを問う学校が見受けられた。
このタイプの一例として、太平洋プレートなどの位置を問う問題も見受けられた。
イ 緊急地震速報の仕組みを問う学校が見受けられた。
P波で感知してから、S波が押し寄せる前に速報するという仕組みを記述させる問題もあった。
2 社会(1月実施の埼玉県の共学校を例に)
ア テーマとして、復興財源を問う問題があった。これまで、直接税と間接税である消費税を区別させる問題は出題されていたが、国債等公債費を出題したことはなかったと記憶している。今年はギリシャに端を発した信用不安と国家財政の規律の問題も無視できなかったのであろう。
イ テーマとして原子力利用を問う学校があった。複数日程校では、原子力の平和利用と原子力の戦争利用をテーマとして別々の日程で問う学校があった。
前者の例として、円グラフを示し、発電エネルギーの中での原子力の比率を問う他、原子力行政の所管中央省庁を問うものがあった。後者の例としては、原爆ドームの位置を地図上から選ぶ問題や第五福竜丸を漢字で解答する問題、包括的核実験禁止条約を解答する問題などが見受けられた。
3 特異点としての指摘事項
今年度の立教新座中学校第一回入試では、素材文が大震災を扱うものであった。
近年、社会や理科で時事問題の出題などが増えていたが、国語では例がなかったと記憶しており、今年度入試の国語の出題の中で最も印象に残った。本来であれば、現物を示したいところであるが、著作権の関係で指摘するに止める。
三 上記のように傾向が例年よりも偏りが出たことから予測される来年度入試
1 例年の傾向に戻すのではないかという予測
ある東京都区部の女子校で入学式終了後に行われた実力考査の問題を入手して分析したところ、例年の入試で出題してきた事項の内で、今年度入試に出題していない事項を問う問題を出しており、基礎知識事項を重視する姿勢に変化がない。とすると、例年通りの出題傾向に回帰するのではなかろうかと予測される。
2 大震災を起点としつつ、今年秋までの時事を問うのではないかという予測
例1 復興財源問題→消費税増税→衆議院解散→総選挙
例2 かねてからある地方分権論争→大震災で具体化した諸問題や大阪都構想→衆議院解散→総選挙
例3 原子力発電所再稼動問題→自然エネルギー開発や発送電分離の具体的政策
これらをテーマとして作問されることが予測される。また記述式で問う学校も出るであろう。
四 討論で出た先生方の意見
1 入試動向雑感について
各私立中学校の備蓄があることは、当然である。備蓄していること自体は、自校のセールスポイントとして学校がことさらアピールする程のことではないという指摘があった。
私も同感であり、通学途上や下校時のリスクを重視している保護者を説得できる要素にはなりえていない。遠距離通学をさせるリスクを重視することは、子を持つ親としては、気持ちがよくわかるので、保護者の皆様の相談があれば、その点を配慮したアドバイスをしたいという指摘もあった。
しかし、より大局に立てば地震に過剰に萎縮することなく、ある程度遠くに通学したいという希望があるのならば、遠距離通学に挑戦することも必要ではなかろうかというのが大筋の見解であった。親御さんの心配は現状としてみれば無理もないが、過剰反応の部分もあり、子供の生命と身体の安全に警戒し過ぎる余り、近視眼的になっている点も看過できない。近場に必ずしも子供の適性や能力に適合している学校がない場合、子供の成長や能力開発に制約を課してしまうのではなかろうかと危惧されるので、よくよく考えて将来に結び付く学校選びをするのが賢明と考える。
2 時事問題について、討論で出た先生方の意見
思っていたよりも内容が難しく、近時の小学生は大変だという指摘があった。やはり国語、算数を早めに仕上げながら、テレビのニュースや子供向けの解説番組、新聞記事などに触れることが望ましい。 また、日能研の重大ニュースなどの教材を利用することも効果的である。
中学入試でこのような難しい時事問題の出題があるので、大学入試についても小論文でテーマとして扱われるのではなかろうかという指摘があった。この点については、前月の研修会報告と重複するが、問題解決型小論文の出題分野の素材になりうると考える。
原子力発電所再稼動問題を素材として出題するなら、稼動しない説、一時的再稼動説、恒常的再稼動説の三つを示し、どれに乗るかを問うことが考えられる。 各見解の考慮要素を示し、自説を示す必要があると考える。中学入試に絞っている本稿では、私見としてはこの程度に止める。
五 時事問題の対処について
時代の変化を受けにくい基礎知識、基礎事項を固めることが先決である。国語の語句、算数の計算、解法の習得に力点を入れ、社会、理科は平素の塾テキストと週末のテストの復習をサボらないことが大事である。
また、公開模試で社会、理科の得点が伸びないのであれば、日能研の『メモリーチェック』に、赤いシートを被せると隠れるペンで正しい漢字や表記で解答を書き、公開模試の前や塾の復習の際に、繰り返し読む方法もオススメである。これらを済ませてからでも、時事問題の対策は間に合うと考える。
ご家庭でテレビニュースや子供向け解説番組などを親子で見ながら、ニュースの素材となっていることを話し合うことは、入試での得点力やコミュニケーション的にも大いに有益である。
|