わたしたち家庭教師は、生徒ひとりひとりの事情に合わせた指導を常に求められる。生徒ごとに事情が異なるので、指導上留意すべき事柄も当然生徒ごとに異なってくる。個々のケースにおける留意点についてはまたの機会に譲るとして、今回の研修ではほとんどのケースに共通すると思われるコアの部分を再確認することにする。
1:5分前に「こんにちは。」
―― 遅刻は論外だが、早すぎてもいけない
授業時間の5分前くらいにご家庭を訪問するのがベスト。ご家庭の事情もあるので、早すぎると「ありがた迷惑」ということも。万が一、交通事情などにより遅刻しそうな場合は、直ちにご家庭に連絡をいれなくてはならない。それがたとえ1分の遅刻であっても同じだ。ご家庭に着いたら、きちんと遅刻の理由をお話し謝罪しなければならない。ここで留意すべきは、言い訳がましくならないこと。遅刻の原因が自分になくても、授業に遅れたという事実に対する責任はあくまで家庭教師にあるからである。
2:チェックしない宿題なら出さない
―― 出した宿題のチェックは最優先
生徒がせっかく頑張ってやった宿題を、確認なり答え合わせなりをしないのでは、生徒の頑張りを認めないのと同じ。チェックする時間がないのであれば、ご家庭の協力をお願いするのも一つの方策。但し、ご家庭の思い、反応はさまざま。お手伝いをお願いする前に事情をよくお話して、お手伝い願える雰囲気か否か見極めなくてはならない。
3:終わりよければ全てよし
―― 生徒の気分を良くしてから授業を終える
授業を終えてご家庭を失礼するとき、生徒が疲れきって精気をなくしているのではご家庭は心配なはず。冗談の一つも飛ばして生徒の気分をリラックスさせ、「次も頑張ろう。」という雰囲気で終えることが大切。
4:その日の授業内容をおおまかに伝える
―― 授業終了後、立ち話で5分
ご家庭との風通しをよくするためにも、授業終了後にその日の授業内容や生徒の様子を簡単にお話しする。ご家庭によっては、「サッと帰ってほしい」日もあるだろうが、5分程度なら邪魔にはならないだろう。帰り際にお話することが難しければ、メールでその日の学習内容をご報告する手もある。
5:指導開始直後、ご家庭はまず何を望むか
―― それは、“変化”
生徒になんらかの問題があるからこそ家庭教師をつけるわけで、家庭教師をつけたにもかかわらず何も変わらないのでは、家庭教師をつけた意味がない。“以前とは変わってきた”とご家庭に感じていただかなくてはならない。例えば、成績が上がった、机に向かう時間ができた、「やらなくちゃ」と言うようになった、「今度のテストはせめて前回よりプラス15点にはしたい」と自分なりの目標を口にするようになった、など。変化を実感してこそ、ご家庭も家庭教師をつけた甲斐があったと思っていただけるのである。
6:物も言いようで角が立つ
――「わからない」、ではなく、「わかりにくい」
子供ながらに、それぞれプライドを持っているもの。そのプライドは尊重し、むやみに傷つけてはならない。生徒にかける言葉ひとつで、そのプライドを打ち壊してしまうこともあることを知らなければならない。生徒が教師の言うことを理解できなかったり問題に正解しなかったりした場合、「わからないの?」ではなく「わかりにくいの?」と表現を変えるだけでも、生徒の受ける印象は違うもの。「わからない。」と言われた生徒側からすると、理解する能力がないと言われた気持ちになったり、場合によっては人格を含めた自分自身を否定されたような気持ちになったりすることだってあるのだ。
7:教わる側に立ってみる
―― 「バックハンドのとき体の開きが早い」、と言われて
:コーチA:「開きが早いから開かないように」
:コーチB:「インパクトの瞬間に右足の親指に力を入れてみて」
わたくしごとだが、高校3年間クビまでどっぷり浸かって夢中になってやっていたテニスを何十年ぶりかで始めた。ここ数年テニススクールに通っているのだが、バックハンドのストレートボールが浮いてしまう。あるコーチAからは、「体の開きが早いからボールに力が伝わらない。開かないようにしましょう。」と言われ、また別のコーチBからは、「体の開きが早いからボールがまっすぐ飛ばない。インパクトの瞬間に右足の親指に力を入れて踏ん張ってみて。」悪いところがあるから結果が良くならない。当然といえば当然。コーチAの言葉はそのとおりだが、教わる私には「開かないようにする」具体的なアドバイス(悪い結果を引き起こしている原因を指摘し、その原因を直すための具体的なアドバイス)が必要なのだ。コーチAの言葉では、残念ながらボールはまっすぐには飛ばない。どうすれば下半身が開かずに残るのかが示されていないのだ。その点、コーチBの言葉はとても具体的である。インパクトの瞬間に右足の親指にグッと力を入れれば、開こうとしても下半身は開かず残り、その結果ボールは糸をひくようにまっすぐ飛ぶ。教える側と教わる側、両者がいつも同じレベルにいるのであれば、教えるほうも教えられるほうもハッピーなのだが、そういうわけにいかないのは皆さんご存知の通り。であるなら、教える側の我々家庭教師が、生徒のレベルまで降りていかなければならないのだ。常に生徒の立場、教えられる立場にたっての指導を心がけねばならない。
8:光るところを探してそれを磨く
―― ご家庭は、とかく凹んでるところが気になる
だれにでも得意不得意はあるもの。ご家庭では、平均より低い教科や、平均を上回っていても他の科目に比べて評価の低い教科が気になるものようである。従って、伸び悩んでいる教科を引き上げてほしいとのご要望をいただくことが多い。しかし、指導開始当初は、こういった不得意教科の底上げを目指すより、本人が得意だと思っている教科を集中的に指導したほうが成果を得られやすいもの。そうやって成果を出した後、不得意教科の底上げに挑戦する。もちろん指導方針をご家庭によくお話をして、ご了解を得た上でのことであるが。
9:月末に一ヶ月の総括
―― 交通費精算のついでに
あらかじめご家庭の都合をうかがって、月末に直接お話をさせていただく時間を設定し、その月の学習内容と次の月の学習予定についてご報告する。ご家庭との風通しをよくするためと、ふだんご家庭が考えていることやご要望をうかがう機会とする。ご家庭側に不満があっても小出しにしていただければ、突然のクビ宣告にはならないだろう。
以上、9つのポイントをあげてみた。家庭教師の先生方の指導に少しでも役立てていただければ幸いである。
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