私たち家庭教師は、生徒一人一人の実力に対応し、その生徒が最も理解しやすい方法で指導していかなければなりません。それこそが、学校教育や塾での学習にはない、一対一の個別指導に求められているものだからです。 ここ数回の研修会において、私たちは生徒の実力を把握する方法についていろいろ学んできました。 今月は生徒の実力を把握した上で、どうしたら生徒にもっともわかりやすい指導ができるかを、いくつかの例を挙げながら考えたいと思います。 1.生徒のレベルに応じて、指導すべき問題を選択する。 たとえば次のような中学入試の問題があります。
一見、どれも同じような問題に見えますが、この3題は難度が(特に例題(3)はかなり)違います。 例題(1)は余りが等しい問題、例題(2)は不足が等しい問題、例題(3)は調べることを前提とした問題となっています。 普通の中学では、(2)までの問題が出題され、(3)は上位校で出題されます。したがって、普通の受験生は(3)のような問題を学習する必要はないのです。塾教材等の問題集で、(3)のようなタイプの問題があった場合、生徒の実力、受験校等を勘案した上で、思い切って割愛すべきかどうかを判断していく必要があります。 2.現在学習している単元が、全体の中ではどのような位置にあるのかをいつもはっきりさせる。 中学校で不定詞を学ぶ場合、教科書では不定詞の名詞的用法、または副詞的用法が最初に出てくることが多いと思います。最初に名詞的用法を学ぶ場合、不定詞とは「to+動詞の原形」であり、「〜すること」と訳すと学びます。そこで、生徒の多くは、不定詞=to+動詞の原形であり、また、to+動詞の原形⇒「〜すること」と訳す、と刷り込まれてしまう、という困った事態が起こります。その結果、次に副詞的用法が出てきたとき、「〜すること」と訳すと習ったものを、なぜ、「〜するために」と訳すのか理解できない生徒が現れてくるわけです。 私は、不定詞を教える場合、必ず、今回学ぶ不定詞は、名詞的用法(あるいは副詞的用法)といって、不定詞の用法のひとつに過ぎないということをきちんと説明することにしています。そうすることによって、生徒の中に、異なる用法が出てきたときにそれを受け入れる前提を作っておきたいと思うからです。 その際にどれだけの説明をするかは、生徒の実力次第でしょう。かなり優秀な生徒の場合には、不定詞にはto不定詞、原形不定詞、完了不定詞があることまで説明しておいて、将来の下地を作っておいてもよいと思います。 先ほどの例題(1)〜(3)についても同じことが言えます。(1)のタイプの問題が出てきたときに、上位校受験生に対しては、例題(2)や(3)のような類型の問題があることを説明しておくのは効果的だと思います。 3.生徒にあったさまざまな解法を示すこと。 ひとつの問題にいくつもの解法がある場合、生徒の理解度や将来の受験校を見据えて、複数の解法を示す必要が生じます。
これは、高校生で学ぶ数学?Tの因数分解の学習で最後の方に出てくるタイプの問題です。 この問題の解法手順を簡単に述べると、 手順?@ 1文字について整理する。 手順?A 定数項部分を(必要ならタスキ掛けを用いて)因数分解する。 手順?B 全体を、タスキ掛けを用いて因数分解する。 となります。 通常、手順?@では、何も考えずχについて整理する生徒が多いと思います。普通の学校の定期テストレベルでは、それで十分でしょう。しかし、例題(5)では、(もちろんχについて整理しても解けるのですが)yについて整理した方が、計算が若干簡単になります。そこで、上位校の生徒や、受験で数学をとる生徒の場合は、両方の解法を示した上で、どの文字で整理するのかの着眼点について整理してあげるのがよいでしょう。
中学受験で出題率の高い「速さ」の問題です。この問題は、問題文を最初に図を用いて整理する必要があります。その際、線分図を用いる生徒が多いと思います。しかし、速さの問題は、ダイヤグラム(進行グラフ)を用いることにより、難度の高い問題でも相似を用いて簡単に解ける場合もありますので、指導する際には、線分図と平行して、積極的にダイヤグラムを描いてあげるとよいと思います。時間はかかるかもしれませんが、何度も見ているうちに、少しずつ生徒もダイヤグラムに慣れ、さらに上位校を目指すことが可能になるかもしれません。 4.まとめ 具体例を挙げて、指導する際のポイントをいくつか述べさせていただきました。このように考えてくると、私たち家庭教師は、その指導科目について、また、受験システムや受験校のレベル・出題傾向などについて、常日頃から、よく学んでおく必要があるということになります。毎日が勉強と言っても言い過ぎではないでしょう。厳しいかもしれませんが、受け持った生徒一人一人の幸せのために、私たち家庭教師の一人一人が、毎日研鑚を積んでいきたいものです。
|